ところが、東南アジアの船員を乗せて動かすと5千万ぐらいで済んでしまう。そういうことがあって、とても競争にならないわけです。いま日本の船会社は何をやっているかというと、キーマンである船長、機関長、一等航海士とせいぜい3〜4人の日本人を乗せて、あと全部フィリピン人を乗せるとかしています。それを「混乗(ミックスドマンニング)」といっています。外国人船員を使いながら、日本人のキーマンを乗せて船を動かすということをやっているわけです。
日本人もいきなり船長とか機関長になるわけにいかないので、そういうトップに立つような人をどうやって養成するかが一つの大きな問題になっています。これはイギリスもドイツもみな一緒で、自国の中のいわゆる伝統的な海運の技術はある程度勉強しなければならない部分もありますが、大工の棟梁のようなもので、オン・ザ・ジョブで習っていくものもずいぶんありますから、そういう部分が失われてしまうのではないかということがあるわけです。
3.2:地球環境問題への悪影響
原油の大量輸送、船員の質の低下、米国民の過剰反応と孤立主義
結局、そういういろいろな問題が地球環境問題に非常に大きな悪影響を与えている。原油は年間20億トンぐらい運ばれています。日本は2.8億トンぐらいですが、アメリカが4.5億トンぐらい輸入しているという状態で、非常に大量の原油が運ばれています。しかもそれが一隻20万トンぐらいの船で動いています。大きなタンカーのことをVery Large Crude Carrier (VLCC)と言っていますが、そういう船にはとても第三国の船員なんか乗せられないといって、日本人の船員ばかりが乗ったわけです。しかし、そうもいっていられなくなって、いまはフィリピンの船員が乗っています。そうすると、どんな事故が起こるか。船員の質は、フィリピンのみならず東南アジア一円では、航海士免状なんていうのはお金を出すと怪しげな露天で売っているという説もあって(笑い)、とにかくろくでもないことがあるわけです。(川村 フィリピンには世界全体の船員の23%もいるそうです。)フィリピンは多いですね。しかも病気になって、例えばガンになると船に乗ってくるというのがあるんです。それで「船の上で死んだよ」といって保障を要求するとか。社会保障が発達してないですから。それを船に求めるとか、いろいろなことがあるわけです。
海運での一番の問題というのは、エクソン・バルディス号が大量の原油を流すという大事故がアメリカであったことで、それに対してアメリカがものすごい過剰反応を示しました。
話が横道に逸れますが、事故を起こしても船会社にあまり大きな責任を問わないということになっているんですね。責任制限という考え方がありまして、一定レベル以上責任をとっても、どうせ船会社が潰れてしまったら何もならないということがあって、海運の保障のシステムは、今はあるレベルまでです。