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それはある種、人種差別的な匂いもしないではないですが、それほど厳しく船員のレベルとか船のレベルをきちんとしないと保険を引き受けない、というスキームの中でディシップリンが維持されていたという要素があるわけです。それは圧倒的な形でロイズが海上保険における供給独占が確立していたからだろうと思います。

それはそれでいい面もありますが、今はそれの正反対でして、保険というのはとりあえずお金が入ってくるわけです。事故は後で起こるわけですから。無責任な保険会社はどんどん保険料を引き下げて、どんどんボロ船の保険を引き受けて、実際事故が起こったときには倒産してサヨナラということになる。極端に言えばそういうことで、実際そういうことが行なわれているわけではないけれど、それに近い状態というのは起こり得るわけです。そういうことになってしまって、こういう点から見ると市場経済が絶対正しいというのは本当かなという気がしますが、そういう状態になっています。したがって、そういうところからいわゆるサブスタンダード船というのが非常に増えていて、これをどうやって取り締まるかというのが大きな課題になっています。

これは後の話とも関係しますが、便宜置籍船がメインストリームになってしまいましたが、便宜置籍船というのはいろいろな問題があります。イギリスとかノルウェーとか、最初やり始めたのはイギリスなんです。イギリス政府がやり始めたということではないのかもしれないんですが、イギリスにマン島という島があります。グレートブリテン島とアイルランドの間ぐらいにある淡路島ぐらいの小さな島ですが、これはあんなに近くにありながら自治領なんです。とにかく女王様は一緒で外交権はないけれど、自治政府を持っていて、議会もあって政府もあるというステータスの島があります。そこが自分のところも便宜置籍船を引き受けるよと言い始めたんです。そうするとどういうことになるかというと、フラッグ・ステイトですからイギリスの旗が立ち、英国政府が決めた厳しいレベルを維持するための取締には服するわけです。ところが、船員や何かが社会保障とか最低賃金制のルールとか、そういうものは守らなくていい。それからイギリス人の船員を乗せなくてもいい。ただイギリスの旗が立って、イギリスの厳しい基準に服するという、一種ハイブリッドシステムみたいなものをイギリスが始めました。それはいい制度だということでノルウェーも始めた。

日本もそれを導入するかという話が出たことがあるんです。沖縄あたりがいいのではないかということでしたが、これは税制に絡む問題とか社会システムの問題ですから、日本の場合は沖縄といえども、大蔵省や何かは、単一国家ですから例外なんか認めないということがあって、なかなかその話にはならなかったです。(川村 また違ってくるかもしれないですね。)なにしろ今は、日本人の船員ばかり一隻乗せて船を動かすと、船員費が1億5〜6千万ぐらいかかるんです。

 

 

 

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