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本来、国際的なルールとしてはフラッグ・ステイト、船の旗を立てている国。例えば日本籍船であれば、日本の役所が船を取り締まる。船員の資格とか教育もやる。それで資格を認定して船長、一等航海士、二等航海士や機関士とかを決めるという前提になっているわけですが、便宜置籍船というのは、そういうのは何もないわけです。船員行政をやる部門もありませんし、船を監督するところも何もない。それで基準からずれたような船が世界中を走り回っているという状態が出現してきました。

それでは、どうするかということになって、本来は「フラッグ・ステイト・コントロール」でなければならないのが、今は「ポート・ステイト・コントロール」で、船が入港してこられる港のほうが管理する。ときどき船に行って、この船は基準に合ってないよ、ここを直せとかあそこを直せと、片っ端から船を捉まえて警告を与える。もし是正措置を講じないようだと、港から出帆させないというようなシステムができあがっているわけです。それは太平洋地域とかヨーロッパ地域とかアメリカ地域で、1ヶ国でやるより地域全体でやった方がいいだろうということで、その基準ややり方を定めたものをメモランダム・オブ・アンダースタンディングと言います。

その本部というか事務局がパリとか東京とかにあります。東京MOUというのは太平洋地域の、オーストラリアとかASEANとかアメリカとかカナダを含んだ地域的な「ポート・ステイト・コントロール」をやるための協議体なんです。それと同じようなものがパリにもあるし、アメリカにもあるし、中南米にもあるという形になっているわけです。

それで例えば、これは悪い船だということになると、その国の間で通告し合って、こういう名前の船が来たら注意しろ、もういっぺん捕まえろというようなこともやっています。こういう体制ができたのは、ごく最近です。日本でやり始めたのは、ここ2〜3年ぐらい前です。日本に太平洋地域のMemorandam Of Understanding (MOU)の事務局があります。

もう一つ先ほどちょっとお話したように、昔はだいたい船というのは、むしろ国家よりも先に海運の方ができて、世界的な一つのプラクティスの中で動かされているというような要素があったものですから、むしろ民間の中での自主的な規律みたいなものがありました。もともとは、ロイズ・コーヒーハウスで始まったロイズ保険組合という一番古い保険の組織がイギリスで出来て、それが安心して保険をつけられるために、どういう船であればいいかということを検査するためにロイズ船級協会ができたわけです。昔は、例えば日本郵船の船は明治中頃から外国航路に就航しているんですが、日本人の船長だと貨物保険は引き受けてくれないんです。イギリス人の船長の名前が船荷証券に書いてないと貨物保険は引き受けないという状態でした。私が会社に入った頃、年寄りの船長の間には、「イギリス人の船長の下でこき使われたよ」という世代がまだ残っていましたから、第一次大戦の後もそういう状態が少し残っていたんでしょうね。

 

 

 

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