これでわれわれ日本郵船調査部の計算では、4億トンぐらい船があったんですが、たぶん2億トンぐらいはいらない。余った船だというので、それこそ南太平洋のサンゴ礁の中に繋船したり、ノルウェーのフィヨルドの波静かなところに船を持っていって繋船するというようなこともやりました(川村 まだあるんですか/高瀬 もうないです)。それから日本の南方洋上に船を浮かべて、タンク代わりに使うというように、あらゆることをやったわけです。どうもいま世界海運が直面している問題は、そこらあたりに遠因があるような気がするわけです。
とにかく海運を一所懸命育てて、海運を経済成長に貢献させるんだという明確な目標は、そのときすでに日本の海運政策当局にはなくなってしまったわけです。以後は苦しんでいる個別の海運企業をどう救済するか、助けていくかということが目標になっていくわけです。例えば三光汽船をどうするか、とかですね。そういう意味で、産業政策というよりもむしろ企業救済という色彩が海運政策としては強くなっていきますが、そこからいろいろな問題が出てくるわけです。
3:海運秩序の無政府化
3.1:便宜置籍船の主流化・オフ・ショア置籍制度
管海官庁を持たない無責任体制の旗国→State Control
市場経済至上主義による規律の喪失
Sub Standard船の跳梁
先進国での伝統的海技伝承の喪失
オイルショック以前から、日本にもそういう波がヒタヒタと押し寄せていましたが、日本は高度成長を通じておそろしく船員の賃金が上がってしまったということがあって、とても日本の船員を乗せることができない。先ほど申しましたように、なにしろ運賃が極端にいえば20分の1、大雑把にいっても10分の1ぐらいまで下がっているわけですから、あらゆる面でコストセーブをしないとやっていけない。
便宜置籍船というのは一種の国際価格で、あらゆるコストの要素を抑える。一番安い資金を調達し、一番安い船員を乗せ、一番安い造船所で船を作るという、あらゆるコストファクターを世界で一番低いレベルに揃えるのが便宜置籍船のメリットですが、そういう方向に流れていったわけです。便宜置籍船というのは、第二次大戦以前からアメリカなどがしきりとやっていたんですが、要するにリベリアとかパナマとか、海運を監督し、船のレベルを取り締まる役所がない国の籍にすることです。ただ、パナマ領事みたいのがサインすると、それがすぐパナマ船になったり、リベリア船になってしまう。要するに船の固定資産税もうんと割引くから、たくさん船を集めることによって金を儲けようというのが便宜置籍船なんです。とにかくコストはただで、領事がサインするだけですから。