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高瀬 いや、それは、IMO (International Maritime Organization)という国連の機関がやっています。ここはあらゆる面からいろいろなスタンダードを決めています。実際上は政府が検査をするのではなくて、船級協会がするんです。一番古いのはドイツ船級協会です。日本にはMKという協会があって、ドイツと同じシステムです。そういう大きないくつかの有名な船級協会があるわけです。ノルウェー、デンマーク、フランス、アメリカにもあります。それがインターナショナルな船級協会のメンバーとして加入しているんです。一応、そのメンバーの船級協会に加入していれば、一流の検査を受けているということになる。実際上は国際条約でいろいろな基準を決めるのだけれど、検査は民間の機関に委託されているわけです。

かつては大変検査が厳しく、「ドイツの船級を取っていないと保険がかからない」とか、「貨物保険が割増しになる」ということがありました。むしろ保険の方が独占だったから、そういう方からの締め付けが大変厳しかったのです。ところが、ここから先は、あとで私がさせていただく話のテーマ16 になると思いますが、市場経済至上主義という要素がワッと入ってきて、あらゆる保険会社が保険契約を欲しがるものだから、基準が非常に甘くなりました。

検査料は検査を受ける方が払うわけですから、船級協会自身も、どうも甘くなっているのではないか。そういういろいろな要素がありまして、ルールはどんどん厳しく精密になっているのに、実態のほうは、かつてのような自立的なセルフ・ディシップリンが効いていた頃に比べて格段におかしくなっている。これが事実だろうと思います。これは市場競争がもたらす一つの弊害みたいなものです。サブスタンダード船というんですが、これもまさに海運マーケットが無秩序になってしまったということから出てきている問題です。これを世界的にどうやって取り組むのかという時に、解決策が何もないんです。

 

17:かつては、ロイズが「駄目」といえば、とても船は動かせなかった

 

川村 この点については、いろいろディスカッションしたことがありますが、わたしは、保険の方から攻めていくのが一番確実な方法じゃないかと思いましたが、どうもいまの話を伺っていると、保険業界で競争をやられたら駄目ですね。

高瀬 かつては一種の権威主義がありまして、ロイズというイギリスの保険会社がほとんど世界のマーケットを支配していた。ロイズが「駄目」というと、とても船は動かせなかった。今はそういう状態ではないですから。いまは何ぼでもいいから保険を売ろうというところが山のようにある。だから自由競争がいいのか悪いのかというのは、そういうところにも影響しています。

 

16 第4章の高瀬氏の講義「世界海運が直面する諸問題」参照

 

 

 

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