日本はわりと役所主導で、役所の主張に役立つような学者を一本釣りする。そして、いろいろな審議会に入ってもらったり、理論武装してもらうという感じです。例えばいま山内先生がおっしゃったような分野をテーマにして研究しているようなシンクタンクとか、客観的に眺めて長期的な戦略を立てているようなところはないんですか。あるいは、もし行政、官庁そのものが海に関する問題を主役として扱っているときに、われわれがここでやろうとしているような研究機関のネットワークとか、研究機関そのものの役割はどの程度あるのか。今のような話を聞いていると不安に感じるんですが、どうみたらいいのでしょうか。
15:優れたNGOは中立性を保つのがうまい
山内 それは難しい問題ですね。UNEPのような国際機関はどうか、という話はよくでると思います。あれは、政府のインタレストとは全然違うところにいますから。
問題は、政治や利害団体とは離れたシンクタンクが中立的にあって、そこが調査研究できるかという話ですが、私の知っている範囲では、NGOというのはどれも極めて価値自由ではないのです。優れたNGO、括弧つきのNGOほど、官側の言っていることを入れながら、なお中立性を保つのがうまい。ですからNGOを動かそうと思ったら連係すればいいのです。NGOは定義的に「ノンプロフィットのNPO」ですから、彼等はどこかからお金を貰わないと動けません。お金を貰う以上はそこが完全に自由であるということはありえないと私は思います。ただ、そういう制限の中で、どうやって中立的な議論をするかということに、NGOとしての価値を見出しているのもたしかでして、いざとなれば尻をまくるだけの覚悟を彼等は持っていると思います。尻をまくるというのはすごい表現ですが(爆笑)。
16:ナホトカ号事故と「船の車検」
川村 別の意見になりますが、「突発的な事故対策」の問題を取り上げさせてください。山内先生が挙げられた事例のほかに、国際会議等でこのような事故に関して取り上げられる問題としては、船の安全性の基準の問題がありますね。要するに国際的な許可がダブルスタンダードで行われている。つまり、日本ではとても許可にならないような構造の船でも、第三国に行くと平気で許可が出る。そして運転することができる。しかもそれを運行しているクルーが、これまたろくな訓練も受けていない寄せ集めのインターナショナルなクルーであったりする。その結果、非常に不安定要因が大きいということが指摘されています。事故を起こしましたナホトカ号も、日本で行われている「船の車検」のような検査にはとても通らないような船です。そういう船が日本の領海のすぐ外を通って事故を起こし、結局大量の油が流れることになった。そういう事故が再発しないように国際的に発言し、あるいは国際的な規制をやろうというのは、シンクタンクの方面からはなかなか出てこないでしょう?