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ネックになっているのが、定点観測の立ち遅れです。栄養度の空間的なシミュレーションモデルを作るマクロな研究や、人工的に藻場を造成して稚魚がどれぐらい発生するかを調べるにも、なによりもまず定点観測が必要なのですが、これが縦割の壁に阻まれて十分には行われているとは言えません。9

最近、日本が環境問題と海洋に取り組んだ面白い事例に、沖縄に作られるはずの国際サンゴ礁研究所があります。10 二酸化炭素の固着がかなりあるのではないかということで、サンゴ礁が注目されているのです。11 これも定点観測をどれだけやれるかが、研究の成否の鍵となることでしょう。

 

8:ナホトカ号事故と縦割行政の欠陥

 

短い時間で盛り沢山の内容をお話しますので、総花的になりますが、あとで質疑の時間を設けますからご勘弁いただきたいと思います。さて、突発的な問題に石油事故があります。石油事故と環境問題について、私はいろいろな専門家と議論したことがありますのでそのケースをご紹介します。実は、海洋という対象を、違う専門領域から見ると、実に面白いプロジェクトになる。そういうお話です。

具体的には、モニタリングには、環境庁水質保全局の課長にご参加いただきました。湾岸については東大工学部磯部教授に参加していただき、鎖性内湾海域問題は、東大海洋研究所中田助教授にご参加いただきました。最後のナホトカ号の流油につきましては、現地の金沢工業大学後藤助教授にご参加いただきました。後藤助教授は、金沢で実際にナホトカ号問題を追跡調査された先生で、重油流出事故の取りまとめをなさった方です。

エクソン・バルディース号の大事故以来、世界では多くの石油タンカーの事故が起きていますが、ダメージ回復には技術的な蓄積があったはずなのに、残念ながら今回のナホトカ号事故では、そうした教訓が生かされませんでした。これも、エクソン・バルディース号のダメージ回復に当たった海外の研究者のネットワークが、日本につながっていなかった、ということではないでしょうか。

また、エクソン・バルディース号事故については、10〜20年の長期的なスパンで沿岸の生態系の調査を行なっているのですが、日本ではナホトカ号について長期的な環境観測を行なう機関が不在というのも残念なことだと思います。12

 

9 非常に意欲的な研究者はいるが、複雑な生態系をコンピュータ・シミュレーションで研究することは不可能である。例えば青潮や赤潮の発生についても十分に原因がわかっていないし、海域的なシミュレートやコントロールは困難だという印象をもっている。

10 琉球大学に非常に活動的なサンゴ礁の研究者がいる。

11 空中の二酸化炭素固定をサンゴ礁がやっているとすると、それが森林などと並ぶ吸収効果があるのではないかという発想だ。ただ、サンゴは動物なので、二酸化炭素を排出しており、ネットで見ると二酸化炭素の排出が多くなるという議論もある。

12 今回は重油が予想を超えて日本海岸に漂着した。もともと日本に寄港しない船が事故を起こしたわけだが、今後はそのような船をも管理せねばならないという新しい問題が提起された。衛星情報やヘリコプター情報を使ったセンサー利用や、風力を入れてコンピュータでシミュレーションを行なう地形情報システムを運用して、より的確な対応をとる事ができるのではないか、など、多くの改良点が指摘されている。

 

 

 

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