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6:日本でmitigationの思想を実践するには

 

つぎに、河川の保全と浸食についてお話しさせていただきますが、国土庁の調査によると、全人口の4割、GNPの7割が海岸域に集中しているのだそうです。ですから、この領域の護岸は死活的な重要性を占めていると言ってよい。しかし、産業基盤を保護するために護岸を強化すれば、環境破壊が進むわけで、きわめて難しいバランスの上に成り立っていることはお分かりいただけるかと思います。7

そこで、いま求められているのが、陸域と海域を統合的に管轄する法体系なのです。開発による環境への影響を回避、最小化すると同時に、どうしても失われざるを得ない良好な環境は再生していく。これが新しいmitigationとよばれる手法なのです。この手法が最近とても重要になってきた。

Mitigationは米国で開発された概念ですが、米国の理念は、“no net loss”という実に徹底したものです。例えば30万平米(小学校30校分)の湿地帯を宅地として開発する場合には、その湿地帯が失われることはしかたないとするが、他所に同量の湿地帯を別に造成せねばならないというのが、“no net loss”の概念です。8

ところが、mitigationとモニタリングは一体なのです。他所に同量の湿地帯を別に造成するというのは簡単ですが、本当にちゃんとした湿地帯になっているのかどうか。これはモニタリングをきちんとやらないとわからない。造成が行なわれた後の時間的な経緯を追跡調査することですね。

もうひとつ、日本でmitigationの思想を実践するには、陸域と水域を統合的に観察することが必要です。こちらはなかなか難しい仕事になります。それには、国土庁と海上保安庁の縦割をやめなければならないからです。国土庁が所管する「湾岸の近傍」と、海上保安庁が管轄する「沖の部分、河川の部分」など管轄権の多重性を改める必要があります。多面的で統括的な管轄が必要だからです。

 

7:富栄養化問題の解決を阻む縦割行政

 

東京湾には夏になると赤潮、青潮が発生します。これは、閉鎖性内湾海域の富栄養化問題とよばれ、とくに海産物に対する「青潮」の被害が深刻なのですが、日本では十分な研究が進んでおりません。

 

7 太陽光線や陸上からの有機塩類の流入のために、極めて有効な産卵地、稚魚の繁殖地である湾岸域の藻場が、埋め立てによって非常に多く消失している。藻場の消失は、やがて、沖合いの漁場を含めて極めて大きなダメージをもたらすといわれている。また、河川の護岸やダム建設を進めると上流からの土砂の運搬作用が止まるか、護岸の侵食作用が急速に進む。

8 非常に実現が難しいが、米国ではこのような理念のもとでの実践が進められている。例えば、州の沿岸管理計画に基づくゾーニングで誘導し、造成した土地の追跡、時系列を含んだモニタリングの手法までの研究が進んでいる。日本でこれを応用したのが関西国際空港の例で、切り立った護岸ではなくわざと斜めのスロープで埋め立てる緩傾斜護岸つくり、そこに藻場を意図的に造成した。現在ではその藻場がしだいに魚の産卵場としても使われるようになっているとの追跡調査があると紹介されている。

 

 

 

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