それは、あくまでもソ連の脅威があったからなんです。アメリカと中国のあいだで、ソ連の脅威を共通項に合意が成り立った。ベトナム戦争などいろいろありますけれども、やはり中ソ対立が、米中のお互いの共通利害になった。ソ連を考える場合に日米安保をむしろ積極的に利用していこうということです。中国のマーケットを最大限に使って経済成長をさせ、軍事力を強化していこうという方向で20年間経つということですね。
55:「同盟条約は冷戦時代の産物だ。時代遅れの同盟はやめましょう」
そして、最近では中国自身が変わってきた。われわれがはっきりと認識すべきは、中国が「同盟条約は冷戦時代の産物だ。冷戦が終わったから、時代遅れの同盟はやめましょう」と言い始めてきていることです。「じゃあどうしたらいいか」と言ったら、それは「軍事交流を深めて安保対話をやっていったら、世の中は安定して平和でよくなりますよ」という。まことにおめでたいことを中国が言い始めてきている。そういう中で信頼醸成が出てきたわけです。
もう「日米安保は要らないんじゃないですか」という方向がはっきりと出てきている。しかし、1950年代、60年代との違いは、今の段階で日米安保をなくしてしまおうと言うと、今度は日本が大国化するという問題が出てくることです。だから、日本の大国化を阻止するという点で、米中の利害が一致しているという面がでてきているところが1950年代、60年代と現在の違いです。中国は日米安保はなくすという方向であるが、すぐになくしてしまうと、日本の大国化という問題にぶつかってくる。
56:「日米中正三角形」と真顔でいうおめでたさ
日本の体制側の中にも、「日米中は正三角形がいい」ということをいう人もいる。それがどういうことかといえば、正三角形を形成する条件は、日本が大国化することですから、そんなものをアメリカも中国も望むはずはない。「日米中正三角形」なんてことを、日本の政治指導者、特に体制側の指導者が語るということ自体が、もうまことにおめでたいとしか言いようがないわけです。(爆笑) そうなったらどうなるかということが、まるきりわかっていない。もう皆さんにはおわかりだろうと思いますけれども、それは理想としてそうなるのはいいかも知れません。けれども、そうなる前に日本は、アメリカと中国から寄ってたかってやられてしまう。アメリカもそうですし、中国にとっても、日本が属国であることが一番望ましいわけですから、日本としては、属国にされないようにして、なおかつ、大国になるとえらいことになるから、大国にもならないようにする。これが国の舵取りというものです。この方向で行くほかに選択肢はないだろうと思います。
57:宣伝に乗せられやすい自衛隊
信頼醸成に話を戻しますが、信頼醸成で一番危険なのは、自衛隊の人間にむかって、「中国は怖い国じゃないよ、中国脅威なんてとんでもないよ」ということを、一所懸命愛嬌を振りまいて宣伝することだと思うんですね。これが一番危険なことです。