34:パルドー演説に大きな夢があったことは間違いない
国連海洋条約ができたときに、布施教授が言われたように大きな夢があったのは間違いありません。パルドーさんが力説されたように、普通の状態であれば開発途上国は先進国を突き上げるが、お金をもらわなければいけないので、どうしても思い切ったことが言えない。それが国連の宿命である。しかし、これからは深海底からマンガンその他の鉱石が採取される。もし、それから得た利益が開発途上国に重点的に供与されるなら、国際政治がオープンに豪勢に展開される。このような、夢のような話をされました。
そのときに、私はちょうどユニターの編集委員でしたので、日本人でおそらく最初に、小田先生よりも先に、パルドー演説を聞いたものでございます。
35:経済水域200カイリ:「どういう結果になろうが構わない」
それは全く夢であって、現実になかなかうまくいかない。誰が考えてもうまくいかないものだということは分っていたのです。うまくいかない理由のひとつは、国連海洋条約が進行していくうちに開発途上国がそれに便乗して、過剰な要求を突きつけるということです。そして、実際に、通航権も自由航行もうまくいかなくなってきた。もっぱら数にものを言わせて、開発途上国の言うなりに会議が動きました。先進国や先進海洋国は受け身にまわりました。そして、「どういう結果になろうが構わない」ということで経済水域が200カイリになってきたわけです。
私のその頃の記憶をたどっていきますと、その頃のやりとりは、開発途上国の「とにかく何とかして経済水域200カイリを認めさせよう」という意図に、アメリカや日本やその他の先進海洋国が反対した。なんとかこの200カイリというのを阻もうとした。ところが結局、開発途上国の多数に押し切られてしまったわけです。
その段階では、私は食べるものも十分にない開発途上国、沿岸国に同情的でした。自分の庭先の魚が全部自分の家で食べられるようになれば、それもいいことだろうと思ったわけです。ところが、結果的には、むしろ捨てる魚が増えている。これでは、人類的立場からすればもったいない。
先進国が非常に気にしているもうひとつのことは、200カイリ経済水域に対する沿岸国の権利主張の拡大です。先進国は、200カイリ経済水域は資源水域にすぎないのだから、航行する権利には関係ないとさかんに言い、押し通そうとした。ところが、沿岸国は「いやいやそう簡単ではない」と言う。
36:クリーピング・ジュリスディクション
これに対しては当時から「いったん資源水域として認めたらなし崩しになります。必ずクリーピング・ジュリスディクションが始まる。やがて、航行も侵害される」という議論がありました。みなさんも記録を調べられたらおわかりだと思います。そして、案の定、いままさにクリーピング・ジュリスディクションが起きている。そして、日本のプルトニウム・エネルギーを積んだ船が、各国の経済水域を通れない状況になっている。
資源水域には、航行の自由は本来関係ないはずだったが、いまとなると、事実上そうではない。そして、全ての島の周りに経済水域を作られてしまうと、日本のプルトニウム積載船は日本にたどり着けない。