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SEAPOLのミーティングには、外務省の中堅の方が時々出ることもあったし、元国連大使の小和田さんも来られたことがあります。あるいは元気な一等書記官レベルも来ておられた。中にはウィーンで事故に遭われて亡くなりましたがイトウノブアキという外交官の方とも同席したことがあります。

外務省としても、これは非常に有益なコンファレンスだという認識があったようです。実際、ASEANの外交官も集まりますから、ASEAN諸国の海洋政策に関する情報を得るために便利です。そこでコミュニケーションをとっていた姿を拝見していました。

ところが学者にいたっては私以外に誰も来ないんです。なぜ来ないかと言うと、カナダがSEAPOLに金を援助しているが、その金は、原則としてカナダ人と、アジアの開発途上国の国民の旅費だけに使う。したがって、日本などの先進国からは自腹を切って参加しなければならない。私は日本からの参加ですから、自前で行き来しておりました。考え方によっては、先進国の学者は、そのぐらいの犠牲はやむなきことである。そう考えまして、また貴重な資料を得るために、私は毎年行っておりました。

 

33:「経済水域内で捕ったASEAN諸国の魚の3割は腐ってしまう」

 

その時に、いくつかの非常に考えさせられる話を聞きました。その中のひとつできわめて鮮やかに私の記憶に残っていることをお話しいたします。これは、国連海洋法条約が施行され、経済水域がASEAN諸国によって確保されてから2、3年後の話でありますが、「経済水域内で捕ったASEAN諸国の魚の3割は腐ってしまう」という話でありました。7割しか有効利用されていない。なにしろ、年中暖かいから、捕った魚はどこかに貯蔵しなければいけないが貯蔵施設がない。冷凍トラックもない。したがって、そのへんの村の魚市場においておく。市場で買う人もあまりいないが、そこでハダカの状態で売られている。非常に大きな車エビのようなものも売られているわけです。

ある時、ある会議の途中で4、5人で散歩に出ました。別荘地帯にある村の市場に行って見ると、大きなカニが竹かごの中にいれてある。風呂釜ぐらい大きいカゴの真ん中に、小さく崩れたかき氷みたいなものがちょろっと置いてあって、その上から下までずっとカニなんです。カニはエビより珍しいから、私たちはそれをひとつずつ自分で選んでとても安く買って、近くのちょっとした屋根がある店で茹でてもらって食べたんですが、その夜は私は一晩中下しました。その日の朝のカニがもう腐っていたわけです。

話を聞くと、全然貯蔵庫がない。輸出しようにも運搬手段がない。せっかく国連海洋条約で沿岸国のためによかれと作った200カイリの条文が、むしろ逆効果になっている。

先進国である日本が地球的見地から資源の保護や有効利用を考えるならば、そういうところにもまた援助をさしのべる必要があるのかなあと思ったわけであります。

 

 

 

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