アジア太平洋地域の国々の発展の源はいうまでもなく海にあります。地域の諸国は貿易により富を蓄積し、文化を発展させてきました。海によって発展してきたこの地域の将来の鍵を握っているのが諸国を結びつけるシーレーンなのです。そして、21世紀のアジア太平洋地域の国々の発展を約束するのは、持続的な海の資源、すなわち漁業資源や石油などの海洋鉱物資源の積極的な活用なのです。
日本には海洋を総合的に研究する機関がない
ところが、残念ながら日本には海洋を総合的に研究する機関がないのです。それぞれの官庁には縦割りの研究機関がありますが、それぞれの視点からイシューを眺めています。しかし、海の問題はそういうシングル・イシュー・アプローチにはなじまないのです。
そこで、私たち研究グループは、日本に総合的な海洋の研究機関が存在しないならば、それをつくることを目指そうではないかと考え、世界のネットワーク研究機関の所在を調査するとともに、1年かけて7名の世界的に著名な専門家をお招きして勉強会をさせていただきました。
この地域で唯一国益を共有できる場は海である
私たちは、専門家とのインタビューのほか、11月にはマニラの国際会議への委員派遣、2月にはハワイのシンクタンクとの意見交換のための委員派遣を行うとともに、定期的に集まり、安全保障分野の研究をすすめました。
その結果、わたしたちが学んだことは、「シーレーンの安定は、地域諸国がお互いに共有できる国益になっている」ということでした。その意味で、アジア太平洋地域の諸国にとって、海こそが唯一国益を共有できる場であることが明らかになりました。
安全保障の問題を抜きにしては十分な研究ができない
また、各分野の問題は相互に密接に関連しからみあっているが、特に安全保障の問題を抜きにしては十分な研究ができないということがわかりました。
もともと私自身が安全保障が専門で、研究委員会のメンバーの多くが安全保障を専門としているのですが、3年前にこの研究会を発足させたときに、さまざまな分野の専門家をさそって複眼的な視点から海の問題に取り組んで参りました。私たちが、国連海洋法や漁業資源、海洋石油資源や環境の専門家と対等に対話することができたのも、私たちの安全保障分野での専門性があったからだと思います。