平成11(1999)年度 公海の自由航行に関する啓蒙普及事業 委員長総括
川村純彦委員長による総括
第1章 総括と提言
この冊子は、平成11年度日本財団による助成事業「公海の自由航行に関する啓蒙普及」の成果の一端をひろく普及啓蒙するために作成した読み物です。1
海洋の問題は幅広く、深みもあり、どこから手をつけてよいか迷うばかりです。書店に参りますと山のように資料が積まれています。なんとか、うみの問題を、手軽にしかも本質をはずすことなく勉強できないかと考えたのが、今年の普及啓蒙事業の企画の出発点となりました。ナホトカ号からの重油流出事故、最近話題となっております海賊問題をみても、少し話をきいてまいりますと、環境、海運、石油資源、漁業資源、国連海洋法、安全保障などさまざまな問題が密接にからみあっていることがわかります。2
1 主催団体:社団法人国際経済政策調査会、協力団体:岡崎研究所、助成団体:日本財団〔平成11年度事業:事業番号176〕
2 環境に関しては、地域の閉鎖海、あるいは半閉鎖海の汚染や、地球規模の汚染、事故対策、モニタリングの問題があります。海運に関しては、船体の安全、乗員の訓練、港湾の整備、航行それ自体の安全、事故が起こってからの捜索救援の問題があります。海洋資源に関しては、エネルギー、鉱物資源、漁業資源の問題があります。おそらく将来の紛争は、魚をめぐって、あるいは石油をめぐって起きることでしょう。その紛争がいずれ戦争に発展しないとは誰にも言い切れないのです。国連海洋法に関しては、この法律が南北対立の妥協の産物であり、海洋国家と沿岸国家の妥協の産物であったという成立の経緯から理解されるように、矛盾をはらんだ国際法であり、「あいまいな点」が、プルトニウム輸送船の通過や、「群島水域理論」の問題を生じさせています。プルトニウム輸送船の問題というのは、日本のエネルギー政策の根幹に関わる問題で、日本は、プルトニウム輸送船は再処理燃料をヨーロッパから日本に輸送する国連海洋法上の権利を有するのですが、最近は、沿岸諸国がこれに不満をもつようになりました。2004年が国連海洋法のレビュー年にあたるのですが、黙っていれば日本の権利は縮小されることでしょう。「群島水域理論」とは、この報告書の大内和臣先生のお話「2004年の国連海洋法条約見なおしに日本は何をすべきか」に平易な解説がありますが、インドネシアやフィリピンなどの沢山の島からなる国家が、従来自由に航行できた島と島の間の海域の通行について、自分たちの権利を主張しはじめたのです。海賊に関しては、地域の結束と協力、海賊にやられないための防護対策が問題となります。