(2) 鯨体へのピン打ち込み方式の開発
曳航体の鯨体への装着は、様々な試行錯誤を経て、次のようなシステムが設計、試作された。
すなわち、装着ピンとピストンが一体になった装着ヘッドを、空気式ランチャーで発射し、命中後、装着ピンとピストンを分離させ、装着ピンに連結された先綱送信体を連結し、曳航させる方式、がそれである。(図3-1)
発射時、道綱に連結されて船上に置かれている送信体を、先綱Aにつなぎ替える役割を持つのが連結葉金具である。試験の結果、当初の製作機材は発射された装着ヘッド部が飛行中進行方向に対して回転運動を起こすことと、索の切換金具が重すぎること、各部に使用する索の構造、寸法、強度、結合法等に問題があること等が判明し、それらの問題点の解決を図り、改良型を設計、製作した。(図3-2)
なお曳航体の鯨体への装着部位については、鴨川シーワールドにおいて小型鯨類(ベルーガ)に試験的に装着し行動を観察した結果、図3-1の下部に示した部位が、くじらの遊泳行動を妨げることが少なく、適位置であることを把握した。
以下、主要なシステム構成部分について述べる。
1) ランチャー
一般に入手可能な発射装置は、表3-3に示す5種である。このうちの、MG5560(救難信号の打ち上げ用)を、海上での使用に際し手持ちが容易なように改良し、口径を55mmから40mmに、筒長を56cmから45cmにした。さらに、発射用圧縮空気のエネルギー効率と命中率の向上を図るため筒長をのばした2種類のランチャーを設計製作した。一つは手撃ち用で、口径40mm、筒長60cm、他は発射台に架装することを前提とした口径40mm、筒長72cmの大型鯨類用である。いずれも飛距離、命中率の向上が確認された。
発射用のコンプレッサーは、通常潜水用の定格150kg/cm2級が使用されているが、発射能力を高めるため定格300kg/cm2(交流220V, 3.7kw)を用いた。
2) 装着ヘッド
従来、鯨体表皮採取(バイオプシー)のため使用されてきた発射体(図3-3)をもとに第1次試験用の装着ヘッド(図3-4)を製作し、試射した結果、飛行姿勢が不安定であったため、重心位置、空気抵抗、慣性モーメント等の検討を行った。
最終的には、図3-5に示す構造の装着ヘッドを開発した。これはランチャーにより発射後、命中した鯨体の皮下脂肪層を貫通し筋肉層で留まる「ヘッドポイント」とその後部の推進体から成り立っている。最後部のピストンは圧縮空気の推進力を前方へ伝え、発射後はランダムな方向へ飛び去るもので回収の必要はない。鯨を標的とする際、発射筒を下向きにするが、ヘッド全体が滑り落ちるのを防止するよう安定翼の外周部に発射筒の内径面との間で微妙な摩擦抵抗を生ずる機構とした。