3-2. わが国でのピン打ち込み方式に関する既往実績
わが国におけるピン打ち込み方式に準じた装着方式の実験は、前章でも一部紹介したように、1966年に文部省の科学研究助成金を受けて開始された「電波標識を応用した大型海洋哺乳動物の生態調査に関する研究」が最初である。このプロジェクトで検討されたくじらへの標識の装着法は、
1] 体内埋め込み方式、
2] ブイの曳航方式
の2つで、前者の「体内埋め込み方式」がピン打ち込み方式に準じたものである。
その内容は、標識管の中に発信機とアンテナを封入し、標識銃で鯨体の背中に打ち込むものであった。実験は重量60gの発信機ダミーとアンテナを標識管に封入したものを、既製の標識銃により発射したが、射撃時の反動が大きく人の肩で支えきれないこと、および標識全体の重量が重いため、到達距離が数10mに達せず、実用は不可能と結論された。
その後、この種の実験は長いこと手を着けられなかったが、平成10年度に第三次補正予算により社団法人海洋産業研究会が実施した水産庁のプロジェクトの一環として1999年2月28日〜3月22日の期間、水産庁遠洋水産研究所が一連の洋上実験を含む一連の事業を実施したので、その概要を中心にここでは既往の実績をまとめる。
(1) 曳航体への内挿機能および形状の開発検討
この実験で検討された項目は以下のとおりである。
1) 電源
バイオテレメトリーで一般的に用いられているバッテリーによる電源では、送信間隔の調整、取得情報の制限等によって、4ヶ月程度の電源寿命を維持するのがほぼ限界である。
そこで送信器自体に発電機能を組み込むことを検討した。すなわち、腕時計に広く採用されている微小な運動量を電力に変換する方式を拡大発展させるメカニズムの考案、基礎実験を行った。この曳航体による発電・データ収集・送信機能の一体化、すなわち『発電送信曳航体』の開発は、今後、一つの取り組むべき課題と考えられよう。なぜならば、くじらの生態研究及び海中情報の収集のためには、なんといっても年単位の有効稼動期間が必要だからであり、これをバッテリー電源に依存するのは少なくとも現在の技術レベルでは困難と考えられるからである。
しかしながら、この全く新しい画期的な曳航体による自己発電方式は、予備的な水槽実験などで所要の電力を得る見込みはたったものの、曳航体にセンサのほかにこの発電機構を挿入することによる大型化の懸念が残ること、および、浮上検知器の開発による消費電力の節約と利用期間の伸長を第一義的課題とするのが妥当、との考え方に至り、実機の設計製作は行われなかった。