(1) 曳航体のサイズと曳航ロープ長
まず第一に、曳航体のサイズについてであるが、対象鯨種によって体長が大きく異なるので注意を要する。たとえば、シロナガスクジラの場合、成体で23〜27m(メスの方がオスより大きくなる)であるが、南極海では33mをこえるものも捕獲されたことがある。新生児は約7m、成体は160トンに達するものもある。これに対して、当面の装着対象と考えられるミンククジラでは、体長は8m〜10m程度、最大体重で14トンといわれる。
どの鯨種を対象にする場合でも、装着部位は噴気口後方の背鰭寄りの背部が適当とされる。余り長いと尾鰭に絡み付く可能性もあり、短すぎると鯨体にぶつかって傷をつけかねない。ミンククジラの場合、せいぜい曳航体のサイズは全長30cm程度、曳航ロープ長は1mが限度と考えられる。
また、曳航体には各種のセンサ、電源部、データ処理部などの装置類が収納されるわけだが、加えて浮上遊泳時に曳航体が海面に浮かんでいる必要があるので一定に浮力材も必要になる。
したがって、これらすべての装置を収納する容器それ自体の小型軽量化および高強度も要求される。
(2) 曳航体の耐圧性能
くじらは、海洋の表層から中層、場合によっては1,000m級の深層まで深浅遊泳をするのであるから、これに曳航される曳航体の耐圧性能もこれに準じたものである必要がある。
しかしながら、曳航体にすべて数1,000m級の耐圧性能を課するのはいささかオーバースぺックといえる。ここでは、たとえばミンククジラを対象にする場合は、餌生物の分布深度から500m耐圧を想定される。マッコウクジラを対象にするのであれば、初めから1,000m以上の耐圧構造で設計、製作する必要があろう。
(3) ピンの構造と保持能力
装着システムの死命を制するのは、確実な装着すなわち脱落可能性の削減にある。したがって、ピン、特にそのうちの鯨体の体内に挿入される部分がいかに確実に体内にとどまってくれるかである。サクションカップ方式では表皮にいかに確実かつ長期に吸着しつづけてくれるかが決定的要素であり、ピン打ち込み方式では、ピン先にかえし構造を加えるなどの工夫が必要である。
さらに、ピンと曳航体は曳航ロープで結ばれているわけだが、くじらの遊泳スピードや潜行深度や角度により海水の抵抗を受けて抗力がピンすなわち体内部に加わることになる。繰り返しの抗力のかかり具合によって、保持能力が影響を受け脱落の原因となり得るので、それも考慮に入れたピン先構造の設計が要請される。