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この他に、航空機、人工衛星によるリモートセンシング情報があるが、文字通り海洋から離れた大気や宇宙空間からの観測であるために、海表面での情報収集が主となる。

さらに、漂流ブイによる海洋情報の収集がある。一般に、航空機や船舶から投入され着水後、自然の海流に乗って観測を続けるので、人工的に設定した側線での情報とは異なり、自然界の変化をそのまま反映した情報が収集できる。ただし、これまでは、漂流ブイから鉛直方向に垂下するセンサ・ラインでの立体情報は、ラインの寿命などにより必ずしも十分ではなかった。

したがって、海洋情報の収集のうえでは、海洋構造の把握という立体情報の収集が極めて重要であることが分かる。最近注目されているものに、ARGOSフロート(図2-1)と呼ばれる自動沈降浮上式漂流ブイがある。これは、上記の海中立体情報の収集を、一定の間隔であらかじめ設定した水深まで潜行・浮上を繰り返しながら漂流してデータを収集するブイで、比較的安価であることから、大量に投入することによって膨大な情報の収集が可能になると期待されているものである。

こうした状況の中で、くじらの生態や回遊経路の把握とともに、曳航体に内挿、収納したセンサで海洋情報を収集することの意義について、触れておくことにしたい。なお、衛星利用による海洋情報収集のこれまでのシステムとくじらに装着した送信器による海中情報収集の比較を、図2-2に示す。

(1) 海洋立体構造とくじら生態挙動との関連性の解明

回遊するくじらにセンサを装着してデータを取得すれば、後述する回遊・行動パターンの特徴からして、表層系と中層、底層系を含むデータの収集が可能となり、海洋立体構造の解明に大いに貢献しうる。しかも、海流に迫随する漂流ブイの情報と連携して解明すれば、相互補完の役割を果たすことになろう。

つまり、漂流ブイは海流追随型であるのに対し、本システムはくじらという生物による海流横断型の海洋情報収集のシステムである。鯨類を活用する本システムでは、その回遊・行動パターンからして、高緯度・低緯度間および海流横断型(ヨコ)で、かつ、0mから数1,000mまでの鉛直方向のデータ(タテ)が取得でき、タテ・ヨコの系を同時観測できることは、海洋の立体構造解明の上で極めて意義が大きい。

くじらの種類によっては、回遊経路が沿岸寄りであったり(例:コクジラ)、沖合であったり(例:マッコウクジラ)するほか、潜水深度が違うので、多数の種類の、多数の個体に本システムを装着すればするほど、調査観測効果は向上するといえよう。

さらに、一般に漂流ブイは荒天時に垂下ラインの破損をきたしやすい。また、垂下深度をあまり長くすると海水中で抵抗を受けてデータ収集に不都合を生じたり、場合によっては海底に接触して破損する恐れもあるので、一般に500m程度が目安で、大水深用はあまりみられない。しかも、波浪によるブイ垂下センサラインの強度は、一般に保証項目とはなっておらず、「ラインが切れたらそれまで」が実状といわれる。と同時に、「電池寿命が問題」となっている。

 

 

 

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