受信アンテナとして2エレメント短縮アンテナを4本、船のアッパーデッキの前後左右に設置した受信機は、4本のアンテナの送信電波の強さを前後左右で比較し、方位を表示すると同時にパルス間隔を電圧に変換し記録機に伝える。記録された電圧値を更正表で変換して水深を得る。
c) 送信器の装着
送信器装着のためのオットセイの捕獲は、首なわを用いて行い、拘束板に拘束する。アザラシ類の麻酔は比較的容易であるが、オットセイの麻酔は覚醒に時間がかかり、致命傷となる場合がある。装着時間は15〜20分程度で、雌の場合は麻酔なしで装着することが可能である。
陸上用発信器はハーネス(幅32mmの布製ベルト、300g)で装着した。ハーネスは目視で個体識別ができるようにカラーテープを縫いつけた。ハーネスの接続には爪金具を用い、調査終了後、腐食によりハーネスが脱落する仕組みになっている。<図1-12>
海上用発信器はエポキシ系接着剤(5分間硬化型、ハイスーパーセメダイン)で頭頂部に接着した。この方法では、換毛時に発信器は脱落するものと思われる。<図1-13>
発信器の体重比は、陸上用(ハーネス+発信器)が雌獣(約40kg)の1.3%、海上用が0.7%で、安藤(1972)が目安とした体重の5%を下回っており、水中重量はさらに小さくなることを考慮すると、行動への影響は少ないと思われる。
2) 人工衛星による自動位置決定方式
遠洋水研の馬場ら(1991)は東部ベーリング海のプリビロフ諸島のセントポール島において、1990年11月に5頭の雌オットセイに電波発信機(ARGOS PTT;直径7cm、長さ19cm、重量450g、耐圧20kgw/m2以上)を装着し、そのうち4頭を約1〜3ヶ月、ARGOSシステムを用いて追跡調査を行なった。
使用した発信機は東洋通信機(株)製で、2タイプがある。タイプ1はアンテナと発信機・電源部は一体化されており、背中に装着され、浮上スイッチ (Saltwater switch)が付加されている。両タイプとも雌成獣の体重(40kg)の2%以内に納まる重量で、耐圧は20kgw/m2、電池寿命は3ヶ月である。
セントポール島の実験で用いたARGOS PTTはタイプ2の方である。そのアンテナ部は透明でフレキシブルなプラスチックチューブをかぶせて保護し、オットセイの背中への装着はナイロン系とエポキシ樹脂で接着した。作業に要する時間は約30分である。