3) VHF/衛星両方式同時利用
アメリカ東海岸のファンディ湾では、ネズミイルカを対象としたバイオテレメトリー研究が行われている。このうちRead and Westgate(1997)はアルゴス衛星を利用してネズミイルカの追跡を行っている。この実験におけるPTTの装着方法は2通りである。一方はスチール製のシリンダー内に格納した衛星用発信機(テロニクス ST10)をイルカの背ビレに縛り付ける正面装着であり、もう一方は長方形の箱形ハウジングに発信機を格納し、イルカの背ビレに直接ピンで取り付ける側面装着である。正面装着用シリンダーの重量は約300gであり、側面装着用ハウジングの重量は約150gであった。1994年1月から1997年5月までに行われた実験には合計14頭のネズミイルカが用いられ、このうち5頭は正面装着であり、残りの9頭は側面装着であった。
本研究では、発信機の電源に2/3アンペアのリチウム電池2本を用いたが、電池の寿命は対象生物の追跡期間を決定する重要な課題のひとつといえる。発信機の省電力化のため、海中での電力浪費を防ぐ浮上スイッチを導入し、使用するセンサーを極力減らした上で1日の稼働時間を6から8時間に制限するなどの工夫を行った。この結果、電池の寿命は最大で数ヶ月となった。
<図1-10>には1995年8月の間に小型VHF(Model2 VHF radio transmitter, 148-150mHz, Adnanced Telemetry Systems, Lsanti, MN)とテロニクスST10衛星発信機を取り付けられたネズミイルカを示した。小型VHFは牛耳用のタグを使用し、衛星発信機はデルリンピンを使用して背ビレに側面装着された。アルゴス方式とVHF方式を組み合わせることで、広範囲の追跡と近接観察を両立でき、また、対象生物に再び発信機を取り付けることも可能となる。
<表1-4>には、実験期間、性別、体長、体重、追跡期間、取り付け位置、取り付け機器等を示した。追跡期間は2〜212日であり、平均で55.3日であった。取り付け方法別に比較すると、側面装着の平均102.3日に対して正面装着は平均9.8日であり、検定の結果、側面装着の方が有意に長く装着可能であることが明らかとなった。この要因は流体抵抗の差にあると考えられ、両者を用いて風洞実験を行ったところ、これらの差が確認された(Hanson 1997)。このように、鯨体に直に装着する方法においても流体抵抗の多寡は大きな要因となる。
ARGOSシステムによって得られたネズミイルカの最長の追跡記録は212日間であった。この事例について1日の位置を1点で代表させた移動経路を<図1-11>に示した。こうして得られたデータは、生物学的な興味のみならず、実際に刺網漁業におけるネズミイルカの混獲を防ぐ上で、非常に有用な知見となりうる。