クジラへのタグの装着は、図1-1に示すようなシリンダーをクロスボウ(Barnett International社製)を用いて最大10mの距離から打ち込むものである。シリンダーの両端に直角に取り付けられたステンレス製ロッド(直径6mm、長さ140mm)の先端は両刃の穂先になっており、クジラの表皮を貫入すると1対のかえしが利いて、タグの脱落を防止する。打ち込み部位は鯨の噴気孔の1m後方が適当であるという。
内挿してある使用ソフトの関係でタグのDuty cycleは1日8時間に制限され、その時間中は全ての送信機がクジラの浮上の際、浮上時間よりも0.34秒長く64ビットの送信を行った。頻度は40秒に1回を超えないようにしている。
ARGOSシステムで得た測位データは、地図ソフト(CAMRIS)に入力され、NOAA chart # 13003およびCanadian Hydographic Servis Chart # L/C4003を用いてデジタル処理して、遊泳速度を計算するものである。
また、1989-1990年の期間、NOAAのTIROS-N衛星による海面水温分布画像処理(SST)を用いて標識を装着したくじらの行動を調査した。
標識装着くじらについては、ARGOSシステムによる追跡だけでなく、目視観測を行い、タグの状況と鯨体への影響も調査した。
1990年には、エンドキャップの縫合針が破損し、鯨体のタグ装着部位が膨れ上がっている例が2例、目撃されている。また、1991年には、改良型のタグを付けたくじらは、# 1421クジラ以外の全てが目撃された。# 1140くじらについては、タグ装着後、58日間、目視追跡することが出来、子クジラも常に一緒であったが、タグは途中で脱落していた。その部位には直径1cmの白い傷跡が見られるだけで、膨れも化膿の痕跡もなかった。# 1140くじらは、タグ装着してから5年経過した時点の写真を見ると、脱落後の部位の表皮が僅かに盛り上がった傷跡が残る程度であった。他の6頭についても写真撮影されており、それによればタグ脱落後の傷はおおむね小さく、彼らの健康に害となることはなかったものと考えられる。
3年間の追跡調査で19頭のクジラにタグ装着を試みた結果、9頭について衛星による追跡に成功した。(1998年=7頭のうち1頭成功/1990年=9頭のうち5頭成功/1991年=3頭全て成功。)その9頭の追跡結果は次のようである。<表1-2参照>
日数:7〜42日
平均:21.7±13.3日
送信回数:2,144回
測位:525測位中87%(456測位)が1頭当たりの測位回数基準(5〜136)を満足。(日平均2.1±0.9測位/1頭/8時間の送信)
移動速度:95%が10km/hr以内
測位カテゴリ:有効測位456中、LC0;71%、LC1;18%、LC2;10%、LC3;1%