日本財団 図書館


2. 調査にあたっての認識

 

現在、海外旅行との競争の激化や長引く消費の低迷を背景として、国内旅行は頭打ちとなっており、国内の観光地は軒並み集客に苦戦している。

これは一時的な不景気の影響による消費の低迷の結果ばかりではなく、むしろ国内旅行が消費者のニーズに合っていない事を示唆している。国内旅行の伸び悩みと裏腹に海外旅行は、97年度には円安の影響などで若干の頭打ちとなったものの、96年度まで5年連続で過去最高の旅行者数を記録している。一時の超円高時代に、海外旅行者の一部が円高を利用した海外でのショッピング目当てで旅行していた事は間違いの無い事実であるが、直近の円安傾向の中でも海外旅行者が堅調に推移している事は、海外旅行が国内の旅行に比べて消費者のニーズに応えた観光商品を提供しているためである。海外旅行と国内旅行の質的な差異を踏まえた上で、観光地としての魅力、観光商品としての魅力を十分検討する必要がある。

一つには国内の観光地が得てして観光資源単体の魅力に拠っているのに対し、海外の観光地はまちそのものが観光の対象となり得ている事が挙げられる。これまで、我が国の観光地においては観光資源、観光施設単体での集客を目的とし、まち全体としての集客を行っていくという意識に欠けていた観光地がほとんどである。その結果として、住民と観光客の摩擦や、没個性的な宴会型の宿泊施設が立ち並ぶ温泉地が続出するなどの問題が全国の観光地において起こる結果となった。これらの問題を解いていく際には、長期的な視点に立ったまちづくり全体を見渡した視点が不可欠である。まちづくりという視点では自ずから5年、10年先の地域全体のことを中心的に検討すべきであり、来年、再来年といった短期の集客については、また異なる視点からの検討が必要となる。

さらに、中期的な視点で見るならば観光そのもののあり方も変化していく事は必然である。過去10年間だけを見ても、消費者が観光に求めるものは景気動向に左右されているとは言え、大きく変化してきた。今後はさらに大きな構造的変化が予想される。したがって、現在の消費者の旅行ニーズだけを前提とした観光資源の評価や、それを前提とした観光地づくりはまちづくりという長期の視点で見た場合に有効性が低くなる恐れが多分にある。特殊な要因であるとはいえ、バブル経済期に計画された観光施設、観光開発の多くが観光客の誘致不振などで経営難に陥っているのは中長期的な観光のあり方の変化を見誤ったためである。

 

本調査においてはそのような将来的な新しい観光のあり方を考え、前提とするところから始める必要がある。新しい観光のあり方とは、消費者側のニーズのみを指すのではなく、それを顕在化させる観光地側の経営体としてのあり方をも含めたものである。

本調査では、観光まちづくりの仕組みは多様であるという前提に基づき、その仕組みの可能性を明らかにする。その上で地域づくりのありうべき姿を広く整理し、実際の地域への適用にあたっては各地域ごとに最も適した手法を選択して実施できるようなガイドブック化を目指すものとする。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION