第2章 観光まちづくりガイドブック
A Guidebook for Toursim Based Community Development
「地域づくりの新しい考え方〜『観光まちづくり』実践のために」
1. 調査の背景と目的
21世紀を目前にした現在、社会のグローバル化の急速な進展等を背景として、観光が各方面から注目されている。
ひとつには世界に冠たる経済大国となった我が国において、生活者が経済的な豊かさからより精神的な充足感を求めるようになってきた事である。すなわち家族や親しい友人と多くの時間を過ごしたり、ボランティアとして社会的な貢献活動に参加する事、NPOの活動を行う事等への関心が高まっており、観光に関してもより体験型、参加学習型の傾向が高く見られるようになっている。
またひとつには、世界的な経済の市場同一化、グローバリゼーションによる人・もの・情報の国境を越えた流れが顕著に見られるようになってきた事である。すなわち、パソコンの基本ソフトに顕著に見られるように、一つの製品が国境を越えて世界的な市場を席巻しており、観光においても国内旅行の市場が海外旅行の市場との激しい競争に晒されるようになってきている。
さらに、少子高齢化の成熟社会を迎える我が国において、地域の活性化と国内産業の雇用創出が急務となっており、その面からも観光産業が地域振興に寄与する重要な産業として期待されている。
しかし、我が国のこれまでの産業育成が製造業を中心とした考え方であったために、観光については、現状の定性的・定量的把握、課題の認識、その対応策などが十分に行われていない。そのため観光を構成する主要な要素である「観光資源」「まちづくり」「観光産業」が一体的な観光地づくりとして機能していない状況となっている。すなわち地域のまちづくりの中で観光資源の価値の向上や、観光産業の振興などを行っていく体制や仕組み、また人材が欠如している。
その結果として一部の観光地においては、観光資源の劣化や資源の有効な活用がされない、観光(産業)と住民の摩擦、また観光の需要(消費者が観光に求めるもの)を把握できないなどの大きな問題を抱えている。
これは複数の観光資源を面的に捉え、観光地全体をマネージメントする考え方が不足している事に負う点が大きいと考えられる。つまり、観光地全体を持続的に運営し、観光資源の劣化を防止するのみならずその資産価値の更なる向上を図り、住民と観光客の双方が高い満足を得られるような地域全体の体制、仕組みづくりを行っていく事が急務と考えられる。