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また両者共に、当日選択した交通手段を利用することが固定化していることが窺われた。この傾向は、自家用車利用者で、より強く示されている。ただし公共交通機関利用者の3割強は、場合によっては車利用の可能性があり、選択制約によって観光行動で車を利用しなかっただけであり、車志向の強さが示唆されている。本研究から、観光行動においては、代替交通手段に対する認識の低さ、所要時間評価の不正確性が、伝統的な手段選択研究の結果よりも大きいことが明らかになった。

須磨海浜水族園入場者の周遊行動に関しては、機動性の高い自家用車利用者よりも、公共交通機関利用者の方が周遊行動の可能性が高かった。

交通に関する意識でも、公共交通機関利用者と自家用車利用者間の意識の相違が示唆されている。特に10代、20代の自家用車利用者は、公共交通機関利用者と大きな意識の相違があり、質問票調査の際のインタビューでも、須磨海浜水族園の最寄り駅がどこにあるのか全く知らない場合が多く、公共交通機関を利用する可能性が低いことを窺わせるものであった。また50代、60代以上の自家用車利用者は、車を利用していても公共交通機関を意識する傾向も持ちあわせており、10代から40代までの年代層のように常に車を利用するといった傾向は、必ずしも明確ではない。交通に関する意識では、世代間での相違が大きいことが窺われた。

須磨海浜水族園への公共交通アクセスは不便である、との運営側及び我々の考えは、必ずしも観客の意識とは一致していなかった。駅からの距離、バスの不便さ、混雑時の駐車場容量の不十分さ、阪神高速・国道2号線の渋滞にもかかわらず、こういう結果になった点について今後追究が必要であろう。

本稿から、都市内集客施設において交通アクセス面で集客対策を考える場合には、公共交通機関利用者と自家用車利用者とを分けて考え、どのような情報が、どのグループに有効なのかを考慮する必要があること、その際公共交通機関利用者の中でも、選択制約のために車を利用しなかった人々は、車利用者となる可能性があることにも注意が必要であること、世代間の交通意識の相違も考慮する必要があることが示唆されている。

また一般的には、交通アクセス上必ずしも有利ではないと考えられる集客施設であっても、観客の意識とは必ずしも一致していない場合があることも示されており、施設の魅力度を高めていくことや行政との連繋によって遊歩道を整備することなどによって、集客力を持つことが可能となることや、集客施設立地の選択肢を広げる可能性も示唆されている。

さらに代替交通手段に対する認識の低さや情報の不正確さを考慮すると、交通手段毎の正確な情報、例えば所要時間や道路及び駐車場の混雑状況等を提供出来れば、交通手段を変更させる可能性があるだろう。そのことによって、駐車場が一杯で入場を諦める客や駐車待ちによって入園時間に間に合わない客の解消、及び周辺道路の渋滞緩和や周辺地域での違法駐車の解消に寄与することができるであろう。

 

 

 

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