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そのことについて尋ねたのが、質問項目(13)である。

公共交通機関利用者の場合、2.9ポイントであり、不便な場所であるとは必ずしも認識していない。また自家用車利用者の場合も3.1ポイントとなっている。両者の平均値の差は、統計的に有意ではないので、何れの交通手段利用者も、同水族園が駅から不便であるとは考えていないことが窺われる。公共交通アクセスに関して、同水族園は有利な場所にあるとは言えないが、必ずしも不利な場所であるとも認識されていないことが示唆されている。

さらに同水族園は、神戸市の中心部から約10km西に位置しており、神戸観光の一つと考える場合にも、若干の不便をもたらしていると考えられる。そのことについて尋ねたのが質問項目(15)である。

公共交通機関利用者の場合、2.6ポイントを示し、必ずしも不便ではないとの認識が示されている。自家用車利用者の場合も2.4ポイントであり、不便ではないとの傾向が示されている。したがって須磨海浜水族園は、最寄り駅からの交通アクセスに関しても、神戸市の中心地からも必ずしも不便であるとは認識されていないことが示唆されている。

観光行動の場合、「長い」「不便」と感じる「客観的距離」と「主観的距離」は、必ずしも一致しない可能性が示唆されている*30。また通勤・通学行動の場合よりも、距離に対する抵抗感が小さくなることも考えられる。そのことが楽しみを目的とする観光行動一般の傾向なのか、観光施設の魅力度によるものなのかについては、さらなる調査が必要であろう。目的地に行く時と帰る時とで、距離感が異なるのかどうかも興味深い点である。

 

2.4 まとめ

以上の分析結果から、「交通手段選択に関する分析」では、利用していない交通手段の所要時間に関して、公共交通機関利用者、自家用車利用者の7割が認識していないか、分からないと答えている。代替交通手段の所要時間を認識している残り3割の観客のうち、公共交通機関利用者の6割が、自家用車を利用した方が早いと回答し、遅いと回答したのは2割であった。逆に自家用車利用者は、公共交通機関を利用した方が早いと回答したのは3割にとどまり、5割が公共交通機関を利用した方が遅いと回答している。所要時間に関して、代替交通手段に対する認識の低さと、不正確に時間評価している傾向が示唆されている。基本的には、日常の生活圏を離れて行なわれる観光行動は、通勤・通学行動よりは頻度が低い移動であり、代替交通手段に関する情報が必ずしも十分とは言えないであろう*31。したがって、代替交通手段の所要時間評価では、実質所要時間と推定所要時間との誤差が、通勤・通学の場合よりも大きくなることは、十分考えられる。

 

*30 本稿で用いる「主観的距離」とは、実際の距離を「客観的距離」とした場合の対概念とする。また「主観的時間」とは、時計で示される時間を「客観的時間」と考えた場合の対概念とする。尚、交通行動における主観的時間・客観的時間に関しては、拙稿(1996)「時間価値についての理論的・実証的研究」を参照のこと。

 

*31 正司(1988)。

 

 

 

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