また、手配旅行契約では、旅行業者に善良な管理者の注意をもって旅行サービスの手配をする債務が生じる(手配旅行約款第3条)。
日本からの主催旅行業者がオプショナルツアーの主催者であれば、当該旅行業者にオプショナルツアーにおいても、日本からの主催旅行同様に上述の債務が生じる。なお、特別補償は、主催旅行約款第24条第4項により日本からの主催旅行契約の特別補償が適用され重複しない。また、前節3の4] のように、現地法人がオプショナルツアーを実施する場合でも日本からの主催旅行業者が主催者と考えるなら同じ結論になる。
次に、現地法人がオプショナルツアーを主催する場合を考えてみる。
オプショナルツアーは、日本からの主催旅行の自由行動中に実施される。自由行動中も主催旅行参加中とされるため、特別補償はオプショナルツアー中の事故に対しても補償される。しかし、それ以外の主催旅行契約上の債務は日本からの主催旅行業者は負わないと考えるのが妥当だろう。したがって、オプショナルツアーの旅行契約において手配されているべき観光施設等に現地法人の手配における過失で入場できなかったり、現地法人がオプショナルツアー中に適切な措置を取らなかったことにより旅行者が損害を被っても日本からの主催旅行業者に損害賠償責任はない*3-17。
なお、旅行者と日本からの主催旅行業者との間でオプショナルツアーの手配につき手配旅行契約が成立するのならば、その旅行業者に主催旅行契約に基づく責任は生じないが、手配旅行約款第27条による責任が生じる。この場合でも、現地法人を旅行サービス提供機関のように考えるためオプショナルツアー中の手配における過失等に対しては日本からの主催旅行業者は責任は負わない。だが、オプショナルツアーを手配するに当たっての手配ミスの責任の根拠が手配旅行約款に求められることは明確になる。
第4節 オプショナルツアーの旅行契約の問題点
これまで述べてきたように、オプショナルツアーの旅行契約は現行の約款では明確な回答が得られない部分が多い。
1996年より現行の標準旅行業約款が適用されているが、改正前の約款においてもオプショナルツアーの性格及び責任の所在が不明確であると指摘され、約款にその規定を新設することが主張されてきた*3-18。しかし、前回の改正においても、主催旅行約款の第24条第4項の規定が新設されただけで、本質的な性格や契約に関する規定は設定されなかった。
*3-17 浦和地判昭和57年12月15日判例タイムズ494号112頁 この判決では、現地観光会社が募集したオプショナルツアーに参加してパラセーリング中に事故にあった旅行者が、日本からの旅行の添乗員にその危険性を説明する義務などがあるとして損害賠償を請求した事件で、当該オプショナルツアーは日本からの旅行契約とは別個の契約によりなされたなどとして請求を排斥した。
*3-18 神戸弁護士会作成『旅行業約款改正に関する意見書』1991年神戸弁護士会 23〜24頁、高橋弘「標準旅行業約款は現状のままでよいのか」椿寿夫編『講座現代契約と現代債権の展望4』1994年日本評論社 228頁