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第5回観光に関する学術研究論文の審査を終えて

 

審査委員長・東京大学教授

西村幸夫

 

第5回目を迎えた本年度の観光に関する学術研究論文募集には昨年をやや上回る16件の論文が寄せられた。応募論文数はそれほど多くはないが、いずれも体裁の整った本格的な学術論文であり、審査員一同、知的な関心をそそられながらすべての論文を読み進むことができた。論文の質が高いことは第1回目から一貫して続く本審査の特徴でもあり、5年目を迎えてひとつの伝統とでもいうべき風格を備えつつあるように感じる。

本年度の応募論文の特徴は話題が例年よりも広がったことで、それは応募者のプロフィールにも現れている。受賞者にも実務家と研究者とがバランス良く入り交じり、関心の広がりと学問的営為の深まりを感じさせられた。

一席に入選した平田論文は、台湾からの「北海道旅行ブーム」はいかにして生まれたのかという興味ある一事象を捉え、当事者としてかかわった人間としての説得力溢れる考察を展開している。マーケティング論に関しては観念的かつ表面的なとりまとめが多い中で、本論文はマーケティングを体現した者のみが表すことのできる迫力で、マーケット論の一般的水準を突き抜けるとともに、これからマーケティングにかかわろうとする者にとっても実務的な教訓にも満ちている。まことに本論文募集の趣旨に合致したレベルの高い実務的かつ学術的研究論文であるとして審査員一同が一致して推薦する論文である。

二席のうち山下論文は、岩倉具視を代表とする明治政府の使節団の見聞録である「米欧回覧実記」に収録された図版類に着目し、どのような対象が描かれているかを分析することによって、使節団が発見した欧米の景観を論じ、日本国民に情報として与えようとした欧米の姿を分析的に論じた、大変ユニークな論文である。「実記」の図版に着目した研究はおそらく本邦初であり、その着眼点は大変高く評価できる。

二席のもうひとつの論文である廣岡論文は、オプショナルツアーの旅行契約上の問題点ならびに旅行業法上の問題点を詳細に論じたものである。オプショナルツアーに関するクレームは海外旅行上の大きな問題点であり、その契約関係を明確にすることは重要な課題であるが、この問題に対して法的側面から緻密に切り込んだ論文として高く評価された。論理の組立も着実で、著者の力量を感じさせる。

 

 

 

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