ひらがなのほうが読みやすいのです。そして、そういう資料をちゃんと持って帰れて、何日か先、その場で体験したものが何だったのかとわかれば、すごく助かります。
もう一つ、名産物はできるだけ試食会を多くつくることが重要です。名産物を生かした駅弁とか定食等は手軽に食べられるようにしたいものです。豪華な料理は考えないで、本当の家庭料理みたいなもので結構です。かえってそのほうが馴染みがあるのです。
あともう一つ、よく日本で言うスタンプラリー方式もいいかもしれません。なぜかというと、先ほどの「自立」ということを思うと、ラリーの場合は、そこもある、ここもあると、幾つかのところを訪ねなければいけないわけですから、その一つのパンフレットであろうが、地図みたいな双六であろうが、今まで行こうとも思わなかったのに、「載っているからちょっとそれも足を伸ばしてみようかな」と、そういう気持ちにもなるのです。
それから、スタンプラリーをすると、あちこちでスタンプをもらったら、お帰りになる際、空港のほうで何か一つ、つまらないおみやげで結構ですから、何かあればいいかなとも思いました。
私はおかげさまでいろいろな新聞、雑誌の仕事の依頼が入っておりますが、ニューヨーク・タイムズにはもう10年ぐらい記事を書いております。ニューヨーク・タイムズはまた特別で、規則がすごく厳しいのです。日本語の環境にいる私にしてみれば、すぐれた英語の表現というものが周りからなかなか耳に入らないですし、自分の文章も、何か英語のいい表現はないのかと考えるとき、それと離れた環境の中ではなかなか難しいわけなんです。ですから、ニューヨーク・タイムズの仕事のおかげで、本当にすばらしい編集部の方々のお力をお借りして、年に五、六回ぐらい記事を出しております。
またニューヨーク・タイムズの場合は、特に読者の手紙や反応、意見は決定時の重要な要素です。一番難しいのが、取材する際、前もって申し込まないことです。それから絶対自分の身分は明かしてはいけないのです。なぜかというと、特に食べ歩きの場合、特別扱いされては役に立たないからなんです。日本のジャーナリストの動きとどう違うかというと、それが一番の違いです。
私はこの顔ですから、黙っていてもこの頃何となく身体の動きで「これは長くいる人だな」と、よくばれるらしいのですけれども、黙っておけば、皆さんに道で出会っても、「昨日来て明日帰るだろう」「外人だな」としか思わない人が多いわけなんです。ですから、黙って取材されたお店にしてみれば、騙されたという気持ちなので、決してお礼の手紙が届きません。あとは記事が出てから、お詫びの手紙をつけて一応皆さんに出しますけれども、それっきり二度とそこには行かなくなるというのが多くあるわけなんです。
でも、やはりニューヨーク・タイムズにしてみれば、これが絶対の規則なんです。ですから、多分おわかりになると思うのですけれども、カメラマンとは一緒に動いていないのです。私があちこちに伺いまして、取材が終わって、文章にまとめて出してから、初めてカメラマンが伺うのです。それで初めてその店やホテルは、取材をされたというのがわかるわけなんです。そこで「取材をお断りします」と言っても、もう済んだことですから、コントロールできません。日本式にしてみれば大変失礼なことにはなりますけれども、平等社会からの人間にしてみると、もう絶対の規則なんです。