福島県双葉郡
富岡町少年剣道団
中学三年生
佐藤慎二
僕が剣道を始めようと富岡町少年剣道団の門を叩いたのは今から六年前の小学校四年生の時です。週に四日、佐藤勉先生を始め、諸先生方につけていただく厳しい稽古に仲間と共に励まし合って頑張ってきました。稽古が厳しいのは当然のことですが、それ以上に大切だと教えられたのは「礼儀」ということについてです。その礼儀の中で特に履物をそろえるという事は、入団して一番初めに先生に教えられたことでした。
「何だ、そんな簡単なこと。誰にだってできることじゃないか。」
正直、僕はそう思いました。誰だって同じように考えると思います。でも、「こんな簡単な事」が実は、「とても難しい事」だとわかるまでそれ程時間はかかりませんでした。口で言うように、頭で考えるようには出来ないのです。「今、急いでるから」とか、「つい忘れただけ」とかいう言い訳ばかり先に出て、履物は一向にそろっていない……、また今日もできなかったと反省する毎日でした。そこで僕は、
「一度に完璧にはできない。それならできる所からやってみよう。」
と思い、まず、家に帰った時は絶対そろえる事に決めました。一日に何回も履物をぬぐその中で、稽古の時と家に帰った時だけ。すると気が楽になったせいかすんなりできました。そんな小さい事ですがとても嬉しくなり、次は学校で履物をぬぐ時、他の家に行った時などだんだん広げていきました。
やり始めるといつでもどこでも意識せずにできるようになっていきました。
「なあんだ、少し頑張ればやっぱり簡単な事じゃないか。」
僕はできるようになった自分が誇らしく思え、とても満足していました。
そんなある時、僕は風邪をひき病院へいく事になりました。風邪は大流行していたらしく病院は患者さんたちであふれ返っていました。受付をしようと履物をぬぎ、はじにそろえて立ち上がった時、僕の目にたくさんのバラバラになった履物が目に入りました。そろっていない履物が、右と左が全然違うところにあったり、重なっていたりしていたのです。「どうしてこんな簡単な事ができないんだろう。僕にだってできるのに。」そう思いながらぼんやり立ち尽くしていた僕の頭の中に、以前先生がおっしゃった言葉がふと浮かんできました。
「礼儀。本当の意味。礼儀の本質というものは相手を思いやることだ。自分一人だけでできることではない。自分がいて相手がいて、そこで初めて礼儀が生まれるんだ。」
僕が今までやってきたことは、礼儀なんかではなく、ただの自己満足に過ぎない、相手を思いやることができてそこで初めて礼儀になるんだとその無造作に並んでいた履物に並んでいた履物が教えてくれた気がします。