ところで、国家緊急時計画では海岸漂着油の除去に関し前述のとおり、関係行政機関、地方公共団体及び区域管理者が健康管理のための体制整備及び円滑な防除作業実施に必要な支援体制整備に努めることを条件に、ボランティア等の協力を得て当該除去作業を行えることを明言している。
したがって、地方公共団体等の協力を受ける側がボランティアに対し協力要請を行った場合にあっては、このような「情報発信システム」を協力要請側が準備するのは至極当然な話である。現にナホトカ号事故の際には、福井県や石川県などボランティアに対し海岸漂着油の除去に関する協力要請を行った地方自治体では、逐次、このような情報発信を行っていたという事実が確認されている。
一方、こうした協力要請の枠外のボランティアに対し、適切な情報を誰が発信するのかは大きな問題である。
国家緊急時計画では、関係行政機関、地方公共団体及び区域管理者がボランティア等の協力を行わない場合にあっては、ボランティアの健康管理の体制整備及び円滑な防除作業実施に必要な支援体制整備に努めることを特に求めてはいない。
そのため、こうした協力要請外ボランティアに対しては、民間等の第三者機関による「情報発信システム」の構築が望まれるところである。
現在、このような「情報発信システム」となり得る民間組織の一つとして注目されるのが、「日本環境災害情報センター(以下、JEDICと呼ぶ。)」である。JEDICは、流出油災害等の環境災害から生態系及び野生生物を保護することを目的に、複数のNGOが集まって設立された任意団体である。
JEDICでは、平時にあっては環境災害対応に関する知識及び技術の普及を目的に、油防除の専門家や関係官庁職員等を講師として招き、災害ボランティア活動への参加を希望するボランティアを含むNGO等を対象とした学習会を定期的に開催している。
また、災害発生時にあっては、当該災害に関する正確な情報を広く一般に向けて発信することなどを事業内容の一つとして掲げている。
こうしたことから、JEDICのような民間組織が、災害ボランティア活動への参加を希望するボランティアに対し、油種の特性に関する情報や油回収活動に係る注意点などの情報を一元的に発信するともに、その状況如何によっては災害ボランティア活動への参加自粛を促すなどの呼びかけを行うことが、「専門職ボランティア」の不在を補うための一つの手法として考えられる。
また、環境庁国立環境研究所では、平成10年度に「流出油の回収対策等に備えた海及び海陸境界線のGIS」と称する、流出油による環境災害への迅速な対応を支援する地理情報システムのプロトタイプを構築した。