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この事故では1]海上流出量が当初発表の約10%であったこと、2]事故発生直後、付近海域には最大11.3m/secに達する南西強風が吹いていたため原油の揮発性分の大気拡散が促され、引火・爆発の危険性が短時間のうちに薄れ、ただちに本格的な油回収活動を行うことができたこと等の好条件が幸いした。そのため、関係官公庁、関係団体、漁業者等による懸命の防除活動の結果、事故発生翌々日の7月4日の夕刻までには、海上流出油の大部分が回収もしくは処理されるに至った。

すなわち、同事故は「油防除専門家」等を中心とした活動によりわずか二日間でほぼ終息状態を迎え、ナホトカ号事故で見られたような災害ボランティア活動は行われなかったのであった。

ところで、仮に当初の発表どおり1万5,000klもの原油が東京湾内に流出し、しかも、原油の種類の違いもしくは海・気象の状況如何等によって、原油の揮発性分が一定期間以上付近海上を漂い、防除活動の開始が大幅に遅れた場合にあってはどうであっただろうか。

同事故がナホトカ号事故発生わずか半年後の事故であったこともあり、全国から大勢のボランティアが現場に集まり、大規模な災害ボランティア活動が展開されたことは容易に予想される。

このような場合、石油類の取り扱いや油回収等に関し専門の知識等を持った「専門職ボランティア」が不在の中で、重油の場合と同様に原油に関しても、果たして同様の災害ボランティア活動が安全、かつ円滑に実施できたと言い切れるのであろうか。

こうしたことから、「専門職ボランティア」の不在問題は、今後の災害ボランティア活動のあり方を考えていく上で重要な検討課題の一つであるものと思われる。以下にその解決方法について、いくつかの考察を行ってみた。

1] 情報発信システムの構築

「専門職ボランティア」不在の場合にあっても、災害ボランティア活動への参加を希望するボランティアに対し、適切な情報を逐次発信する「情報発信システム」を構築するという手法が考えられる。

同システムは、災害ボランティア活動の安全かつ円滑な実施に必要な諸情報、例えば流出油種ごとの特性に関する情報や油回収活動における注意点などの情報を発信するものである。

無論、油種や現場の状況如何によっては、ボランティアに対し油回収活動そのものへの参加自粛を促し、側面・後方支援等にまわることを呼びかけることもあり得る。

 

 

 

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