「海図市場調査」「水路図誌懇談会」等の結果を受けて、海上保安庁水路部では現在精力的に海図等の掲載情報の見直しを行っておりますが、現時点で知り得たことを記述します。
水先人乗船地点を記載しなかった理由を筆者なりに推測しましたが、時を経てこんにち、全員外国人が乗船する船舶が日本の周辺海域を繁く往来するようになったことを考慮すれば、再度の見直しは当然であり、類似の自主設定航路も同様の判断が求められましょう。
従来、この種の情報は日本水路協会発行の水路参考図「海上交通情報図」(英語版も発行されている)に掲載してあり、海図と併せて使用することを願っておりましたが、ことに外国人船員にとってはそうした併用は不馴れで煩わしくもあろうと思われ、かつ最近の調査でも記載を望む声が強いこともあり、官側では水先人乗船地点、日本船長協会の自主設定航路(記事による)は次の改版時に記載する方向で固まったようです。
なお、その他の利便情報も要請があり、必要性が認められれば前向きに判断されましょう。
(2) ローマ字の修正ヘボン式化
その他大きな事項では、ローマ字表記を原則として修正ヘボン式に変更することがあります。現在、海図等水路図誌の地名のローマ字付記は、訓令式(昭和二十九年内閣告示第一号第一表)を用いていますが、こんにち、一般社会にあっては人名、地名などそのほとんどは修正ヘボン式によるローマ字表記となっております。海事関係にありましても、例えば港湾管理者が使用している港湾名などは英語の表記に近い修正ヘボン式による表記が使用されています。
一方、海上保安庁では、港則法に基づく入出港に関わる申請手続きのEDI(電子データ交換)化を平成十一年十月から開始し、税関、入国管理事務所、検疫所の通関情報処理システムとの連携で、手続きのぺーパーレス化を図ることとなりましたが、このシステムで使用される港名、地区名は修正ヘボン式です。
こうした海運界の実情、行政の取り組み等を考慮に入れて、水路部としては修正ヘボン式化への移行を決断したものです。実際の作業手順は現在検討中とのことですが、改版に併せて随時実行されることと思います。
(3) 改版周期の短縮化
水路部では、以前から海上交通安全法の指定海図や三大海域(後記)を中心とした重要海域の海図は、可能な限り定期的に改版を行う方針で臨んでおります。ではありますが、電子海図という新たな航海情報の出現に大きな勢力を投入したこと等から、相対的に紙海図の改版作業が遅れがちになったことは否めません。そうした事情は、現在でも解消されてはおりませんが、日本国の港湾までが外国版によって蚕食されては面目が立ちません。
そうした危機感から海上保安庁では、当面の定期改版計画を二五版とし、「関門港の三版は毎年改版(従来どおり)とし、東京湾・伊勢湾・大阪湾の三海域は、海域ごとに三年周期で改版する」とした新しい改版方針を立てました。
(4) 販売体制の見直し
1] 周知活動から
日本版海図について予備知識のない外国船員に対し、性急にその使用を勧めても効果のほどは疑問で、まずは日本版に慣れ親しんでいただくことが先決でありましょう。例えば日本の複数の船社が国外で船員の養成を行っておられる、そんな場で日本版の海図を教材にしていただく、そうした啓発活動が日本版への理解、信用につながっていくように思われます。これはぜひお願いせねばなりません。
次に、遅ればせながら「水路図誌目録」(官発行)の英語版を急きょ作成することとなりました(平成十一年十月末発行)。従来版では一応英語を併記しておりましたが、もとより日本国のユーザー向けの編集ゆえ外国のユーザーは見づらい構成となっておりました。