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BRM研修について

(株)日本海洋科学

海上技術安全部長 中條幸基(なかじょうこうき)

 

はじめに

 

最新の機械技術を駆使し、十分な経験を有する人々によって運航されていても船舶の海難事故は発生します。事故にはさまざまな要因が考えられますが、海難事故の七〇〜九〇%は、ヒューマンファクターに起因するといわれています。事故に潜在するさまざまな要因をヒューマンファクターの視点からとらえ、われわれが利用できる情報、もの、人といったリソースを適切にマネージメントすることによって事故を未然に防ごうとする考え方がBRM(ブリッジ・リソース・マネージメント)です。

このようにヒューマンファクターに視点を置いた考え方は、一九七〇年代後半に、航空分野で重要視されるようになり、コックピット・リソース・マネージメント(CRM)と呼ばれています。BRMは、同様の手法を海運分野に導入したものです。

わが国でBRMが注目されるようになったのは、一九九七年に東京湾で発生したVLCCの海難事故を契機としています。事故後の安全対策の一環としてBRM研修の必要性が提起されたことによります。当社では、当該事故に鑑みBRMの必要性を認識し、二年前に船舶乗組員を対象としたBRM研修を開始しました。わが国における研修実績は、欧米に比べて非常に浅いといわざるを得ませんが、今までの経験も踏まえてインストラクターの立場からBRM研修の概要を紹介させていただきます。

 

BRM概念

 

BRMとは、「安全運航を達成するために船橋(ブリッジ)で利用可能なあらゆるもの(リソース)を有効活用(マネージメント)すること」ということができます。

一般的に、事故を起こそうと思って作業している人は、誰ひとりおりません。しかし、人間誰しも誤ちを犯す可能性があります。われわれは、「エラーゼロ人間」になることは不可能だからです。ただ、ヒューマンエラーを全くゼロにすることはできませんが、発生したエラーの影響を最小限に抑えることは可能です。大事故に至らずにヒアリハットで収まった経験をお持ちの方は多いと思います。そのためには、利用可能なあらゆるもの(リソース)を有効活用(マネージメント)して、エラーを早い段階で発見し対処することが必要です。

船橋には、次のようなリソースが存在します。

・「ハード」

コンパス、レーダ、ARPA、GPS、VHF…

・「ソフト」

規則、マニュアル、チェックリスト、天気図、航行警報…

・「環境」

騒音、空調、労働環境、社会環境…

・「人間」

自分自身、航海士、操舵手…

ヒューマンエラーは、人間とこれらリソースとの係わりのなかで発生すると考えられますが、エラーの発見には、自分で気づく場合と周囲の人が発見する場合があります。

いずれにしてもヒューマンエラーを発見するには、リソースのなかでも「人間」、すなわちヒューマンリソースを活用することが重要であり、かつ不可欠であるということができます。具体的には、状況の変化を感知する自分自身の適切な判断能力を常に維持すること(セルフマネージメント)であり、また同様に、チーム機能を有効活用して、チームとしての判断能力を高めること(チームマネージメント)です。

BRMの概念を図に示します。

 

BRM研修

 

研修の目的は、安全に対する意識を高めることと、リソース、特にヒューマンリソースを活用する手法を理解し身につけることです。

研修は、一般的に座学と実習から構成されます。

 

 

 

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