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(社)日本旅客船協会 労海務部長

久野昇一(ひさのしょういち)

 

<プロフィル>

昭和十年生まれ、福岡県出身、昭和三十二年海上保安大学校卒業、昭和六十三年東京海上保安部長、京浜(東京)港長、平成三年四月海上保安庁退官、平成三年四月から現職

 

―― まず、わが国交通体系の中での旅客船の役割をお願いします。

久野 日常的な移動手段として一般旅客を対象に定期輸送を行っている航路は、五三二航路あり、年間約一億二、二〇〇万人が利用しています。また、このうち二二〇航路はフェリー航路となっており、年間約二、三〇〇万台の乗用車、トラック等を輸送しております。

また、各地に点在する島々や陸上輸送が困難な地域においては、船舶が人々の生活物資を輸送するための交通機関として極めて重要な役割を担っており、こうした離島航路は三三四航路あり、年間約六、八〇〇万人が利用しております。さらに、長距離フェリー輸送は、鉄道や航空路線に並行して本州から北海道・四国および九州といった長距離路線で活躍しております。

―― 昨年は旅客船の海難が多かったようですが、安全についてのお考えをお聞かせ下さい。

久野 旅客船事業の最大の使命は「安全運航」と「安定輸送」の確保にあると認識しています。このため、運航事故の未然防止を目的に、船舶運航の学識経験者による安全運航の訪船指導を日本海難防止協会に依頼して毎年計画的に実施しております。

旅客船の高速化・大型化・機器の高度化が進み運航形態も多様化しておりますが、これに対応した乗組員の安全教育は、旅客船の特殊性に鑑み旅客船独自の訓練教材を作成し、地区旅客船協会において実施しております。

また、発生した事故を教訓に、船舶運航体制や運航ルールの見直しなどを行い、安全対策には積極的に取り組んでおります。

―― BRM(船橋配置者の情報管理・組織運用)について、旅客船についてはどのようにお考えでしょうか。

久野 BRMは、わが国では三年前のダイヤモンドグレース号の事故以後脚光を浴びたものですね。

旅客船では複数当直の船もあり、また、出港時などに船橋には船長その他複数配置となる船も多いので、事故防止にはBRMでいわれれている配置者同士の「コミュニケーション」「隙のない連携プレー」が極めて重要であると認識しています。

先の訪船指導でもアドバイザーから、旅客船の場合には出入りする港、航路が同じであり、また乗組員は同地出身が多いことから、海域状況が頭によく入っていること、「あうん」の呼吸で作業が円滑になされていると言える反面、馴れ合い、マンネリ、不確認などによる事故発生の懸念があるとの指摘があります。昨年発生した旅客船事故のなかにも、船長への適切な報告がなかったことも海難の一因とみられるものもあります。私どもは日本旅客船協会の機関誌「旅客船」二〇七号(平成十一年二月発行)掲載のBRM記事を安全運航の参考にしたいと考えております。

―― 最後に安全への抱負をお聞かせ下さい。

久野 旅客船は万一事故が発生した場合には、多くの人命が危機に陥る恐れがあります。関係者は、ヨーロッパ、東南アジアなどで起きた旅客船の海難を「対岸の火事」とすることなく教訓として、何よりも“安全第一”を肝に銘じて安全対策に取り組みたいと考えております。

(一月十二日、日本海難防止協会で、聞き手=村上)

 

 

 

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