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当社では、座学を一日、操船シミュレータを使用した実習を二日、計三日の研修としています。

座学では、インストラクターが細かくレクチャーするのではなく、研修生主体とした方法を採用しています。自らの意識を高めるには、人の話を聞くだけでは効果が望めません。今までの経験や体験を参考にして、研修生自らが考え、自分の意見を言い、他の参加者の意見を聞きながら、ディスカッションする過程(対話方式)で自分自身の意識を高めていくことが可能であり効果的だからです。

一方、ヒアリとした経験も、受け取り方は人によって異なります。同じ状況に遭遇しても、ある人はハットし、ある人は何も感じないかもしれません。同様に、自分のミスだと感じる人もいれば、自分のことを振り返らずに相手が悪いと即断して疑わない人もいます。人間は誰しも自分の行動が間違っていると思いたくはありません。一般的に、最良とは言わないまでも自分の行動にそこそこ満足しているのが実状ではないでしょうか。

そこで実習が効果を発揮します。操船シミュレータを使用して通常の作業(ロールプレイ)を体験します。

リプレイ映像あるいはビデオなどで作業を振り返ると、自分の行動が、自分が思っているほどではないことを実感します。また参加者の意見もとても参考となり、自ら改善点を認識することができます。実習の目的はこの点にあるわけです。

このようにBRM研修は、研修生主体で行われ、研修生自らが、安全に対する意識を高めるとともに、自身のマイナス面、プラス面に気づき、これらを具体的な行動改善につなげることができます。

(1) 座学

BRMの必要性、キーポイント、具体的対応、ヒューマンファクター等、前述したBRM概念の内容について、ディスカッションを交えて学習します。認識を深めるためにいくつかの海難事例をケーススタディしますが、ケーススタディでは、事故要因をあらゆる角度から検討し、ヒューマンファクターと事故の係わりを認識するとともに事故防止のための具体策を考えます。

また、チームマネージメントについては、その構成要素である1] リーダーシップ、2] コミュニケーション、3] 人間関係の各視点から最良と考えられるマネージメント方法を学習します。

(2) 操船シミュレータによるケーススタディ(知識の実践)

座学で理解した知識を身に付けるには、通常作業を通して自分で考え、行動することが有効です。そこで、操船シミュレータを利用して模擬操船(ロールプレイ)を行います。

研修生の中から、船長、航海士(一〜二人)、操舵手といったそれぞれの役割を定め、さらにオブザーバー役を配置します。これらの役割はシナリオごとに変更します。航海士も船長役を行います。実船では経験できませんが、船長役をすることによって、船長が「今、何を求めているか」を肌で覚えることができるからです。

使用するシナリオは、外航船員を対象とした場合には、通常「東京湾入域(北航)」「浦賀/中の瀬海域(北航)」「伊良湖水道入域」「マラッカ・シンガポール通峡(ホースバーグ海域、メインチャンネル、ワンファズムバンク)」等、常用する海域を使用します。いずれもチーム機能が最も求められる海域です。

エラーを発見して、エラー連鎖を断つには、状況の変化に気づく(状況認識)能力が必要です。

周囲の航行船舶の動向、VHF情報、VTS情報、計器類の異常等々、さらにはチームメンバーの変化も見逃すことができません。チーム機能を活用するためには、このような状況認識をブリッジチームとして共有することが必要です。航海士は気づいていたが船長は知らなかったというのでは、チームとしての機能は果たされていません。

正しい状況認識に基づいて、最終的には船長が決断し行動することになりますが、この場合もチームメンバーは、船長の行動のチェック機能としての役割を果たさなければなりません。経験豊富な船長といえども人間であり、ミスを犯す可能性を秘めているからです。

 

 

 

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