水産業、特に漁船漁業が立たされている厳しい環境は、新造船建造の意欲を減退させ、昨年の時点で漁船の平均船齢は約十七年となり、さらに延びる傾向にあるといわれています。
また、機関が換装されるインターバルも年々長期化しています。船体材料が木船からFRPになってその耐久性は格段に延びましたが、逆に機関は過給等による高出力化、高性能化が進展する一方で、漁労時に長時間過負荷で使用するケースが多いこと等過酷な使われ方が一般化しているので、機関の適切な保守点検が行われないと今後機関事故はますます増加の一途をたどることになることが予想されます。
保守点検を疎かにしたために発生した漁船海難の事例
海上保安庁で調査した機関故障海難の最近の事例として次のようなケースが報告されています。
・漁船「A丸」(三トン、一人乗船)は、造船所にて主機関空気冷却器の修理を行った後出航し、漁場で操業準備中、機関室に浸水が発生、機関も起動不能となった。浸水箇所を調査したところ冷却水海水入口側パイプのゴムホース継ぎ手取り付けバンドの締め付けが不完全で、船長が増し締めを行い浸水を止めた。
・遊漁船「B丸」(三トン、乗組員一人、船客二人乗船)は、遊漁中天候が悪くなってきたので、帰港するために、抜錨し機関を始動しようとしたが、バッテリーの電圧低下により、機関の始動ができなくなり、航行不能となった。
・漁船「C丸」(一九トン、二人乗船)は入港時は特に異常が認められなかったが、約一時間後同船は左舷側に大きく傾き、機関室内に浸水しているのが発見された。排水後原因を調査したところ、雑用水ポンプ吸入口のフランジがビニールテープで止められており、これが脱落したために船底弁から直に海水が進入したことが判明した。
・漁船「D丸」(四九トン、四人乗船)は、太平洋で操業中減速機から油漏れが生じたため修理を行い操業を再開したが、翌日、同箇所が再度不良となったため再度調査したところ、フライホイールのクッションゴム不良により主機関が振動しそのため減速機の配管取り付けボルトが緩み、同部油漏れを起こしていることが判明した。交換部品がなかったため所属漁協から海上保安部およびサルベージ会社に連絡、えい航救助された。