私は、知らないうちに、自分より不幸な人を探していた。そうすることで、自分の気持ちを少しでも和らげようとしたのだ。今思うと、そんな自分がすごく恥ずかしい。
人間は、悲しいことを引きずっていかないように、時が経てば忘れられるようになっている。だけど自分が父のことを忘れていくと気付くと、なんとも言えない悲しさがある。
あまり怒らなかった父。
酒を飲むとすぐ赤くなる父。
酔うとひげを私の顔にあてる父。
「寒くて風邪は引くが、暑くて風邪は引かん」と言い、よく布団をかけてくれた父。
その時は嫌だったことが、どれも父とのよい思い出だ。
私は、なんで私たちを残していってしまったのかと、父を恨んだ。でも父は、それ以上に私たちを残していくことが、心残りだったと思う。
母は、とても頑張って私と弟を育ててくれた。それは分かっていたけど、母がたまに弱音を見せると「それくらいで、文句を言うな」などと言ってしまった。母の弱音は、聞きたくなかったから。
あれから私も少しは大人になった。だから母の苦労はよく分かるし、感謝している。これからは絶対に母を大切にしようと思う。まだまだ苦労かけると思うけど。
父には、たくさん話したいことがあるし、私の成長を見てほしいとも思う。きっと、どこかで見ていると思って強く生きていきたい。
この作文は、今まで父のことについて書かなかった私からの父へのメッセージだ。
「お父さん、いつか会えたらいいね」