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特に濃霧、降雨時、また時化や夜間における捜索では、前記時間の経過、位置の不確実性は転覆船、海中転落者の早期発見を著しく困難にします。

沿岸部における海難では、遭難情報が入ってから比較的短時間で捜索航空機、捜索船が現場に到着しますので、海難情報の早期伝達は「命を助ける鍵」となります。特に明るいうちの航空機による捜索は、早期発見を確実にする最も頼りになるものといえましょう。

 

研究開発の願い

 

その意味では、遭難の早期伝達手段としてのEPIRB、濃霧、降雨、時化、夜間時の遭難船へのアプローチではSART(レーダートランスポンダ)が有効であり、GMDSS体制の柱ですが、種々の事情により小型船舶への搭載は義務とはなっていません。GMDSSの導入・普及の指導、パンフレット、講習会などでは、搭載義務のない小型船にもEPIRBの搭載をお勧めしていますが、これは上記のような理由によるものです。

しかし、いかんせん、EPIRBは大型のもので二〇数万円、小型のもので一〇数万円とのことで、小型船の方々が購入・搭載するには値段が高いのがネックと思います。

私達は、沿岸部で操業する小型漁船の方々を対象に救命胴衣(救命衣)の常時着用を呼び掛けていますが、一万数千円〜二万円程度のものでも普及に困難を生じているような現状では、現在のようなEPIRBの小型漁船等への搭載普及はなかなか困難と思われます。

そこで、これに類する小型で安価な機器の開発が望まれます。開発の困難性は承知の上で書いています。

ただし、次ぎのように「小型船は沿岸部」というのがキーワードです。大型船、遠洋、世界規模というものとは違うものでよいことを考慮すれば、小型化、安価というものに迫れるのではないかと思っています。

1] 活動海域が沿岸部であるので遠洋の場合よりも微弱な電波でも到達するので出力の小さいものでよい。(衛星活用では沖合い船舶用とは別の電波使用を検討する必要があるかもしれない)

2] 捜索救助が早期に現場到着で開始されるので、電波発射時間は遠洋のものより短くてもよい。

次のことは、技術に「うとい」私が、また条件の違いを承知のうえあえて書かせていただきます。

陸上においては

1] 高齢化社会に備えて、散歩、徘徊する老人の位置を把握する方法としてのシステム

2] ペットブームをとらえ(あるいは先取りして)、迷子ペット、徘徊ペットの位置を把握するシステム

3] 渡り鳥に「長距離の渡り」を解明するための、衛星を利用した位置把握システム

等々の研究がなされ、中にはすでに実用化されているものもあると聞いています。

最近の電子機器技術の発展には著しいものがあり、陸上の分野では、開発の必要性の他、特に開発に成功すれば利益に結び付くものが多く、メーカーが争って真剣に取り組む土壌があることが、海上部門とは異なるかもしれません。

海上では毎年小型船の海難により多くの人命が失われております。極端な話で申し訳ありませんが「ペットの命よりも人の命」ではないでしょうか。小型船の乗組員の命を救う手段を、官民一体となってアイデアを出し合い協力し、初期には研究機関、開発企業などへの支援をも考え、何とか小型船用のEPIRB、SARTのような、あるいは斬新な機器の研究開発を進めていただきたいと切に願う次第です。

また、本号で強く訴えられていますが、小型漁船からの海中転落による死亡・行方不明者が多くみられ、「浮いていれば助かる」というものをさらに確実にするためにも、救命胴衣(救命衣)に装着できる超小型遭難発信装置の研究開発も望まれるところです。

もちろん、日本海難防止協会としても関係の向きと協力して取り組みたいと考えているところです。皆様方からのアイデアをお待ちしています。

 

 

 

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