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よって、実用化のためには技術的完成性、制作費、販売価格等課題はあるものの、私の考えは、海面下の距離に関係なく完全水没状態で水を感知したら離脱する設計にできないものでしょうか。

なお、瞬時に転覆し真っ逆さまになっても、イパーブが船体の一部に引っ掛からずに浮上するような工夫も必要と思います。

これらのことを総合して確実にイパーブを発信させ救助につなげるならば、基本は「乗組員が救命いかだに脱出するときにイパーブを一緒に持ち出し発信させる」ことではないでしょうか。そうすれば、発信している状態がランプで分かり、漂流者に安心感を与えるとともに、何よりも救命いかだが船から離れて漂流しても当該「いかだ」の位置が示されるということが、早期発見につながるのではないでしょうか。

 

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在りし日の新生丸

 

レーダートランスポンダ

 

新生丸ではイパーブを発信にセット、救命ボートに移乗できなかった機関長が発見されることを祈って船から外さず、代わりにトランスポンダ(救難応答信号機)を救命ボートに持ち込みこみました。

結果四人は、三十八時間の漂流後、僚船徳島県の第三勝丸がトランスポンダをキャッチし、発見・救助されました。

しかし、発見されるまでの間に三キロメートルのところを通過した大型船舶や捜索のため二回飛来した航空機にはキャッチされませんでした。

最新式のレーダートランスポンダがなぜ有効に機能しなかったのか、ぜひその原因を究明して、捜索側から確実にキャッチできるものにしていただきたいと切に願うものです。

なお、乗組員についていえば、夜間はライフラフト備え付けの電灯の活用も望まれます。

 

見張りが基本

 

新生丸の海難事故は、八丈島東方の公海上におけるパナマ船との衝突・転覆であったことが判明しましたが、衝突原因は双方の「見張り不十分」だったということだそうです。

現在、漁業経営は大変厳しく、漁獲不振の中で、船主は融資を受け、船体、機関、諸設備の新換えや増設を行い、大切な漁船を乗組員に預けて漁獲収入を期待しているのです。一方、乗組員はこれに応えるべく、出港から入港まで過重労働の毎日に耐え、疲労困憊の状況にあります。

だからといって「見張りの怠慢」から生じる衝突事故は、漁船を安全に運航させる義務に反することであり、漁獲量を云々する以前の問題です。

当直者は、船主から船を預かっている、乗組員の家族の生活を預かっている、そして乗組員全員の命を預かっているのだという重大さを自覚することが何より大切だと思うのです。

聞くところによれば、漁船の居眠りによる海難事故は毎年多く発生してるようです。当直中に眠くなっても1] 決して座らないことが第一2] 水で顔を洗ったり、風に当たったりして刺激を与えること3] 船橋内を歩いたり、体操をしたり体を動かすことなど、とにかく考えられるいろいなことをして、眠らないようにしましょう。

最後に、漁船漁業の漁労条件は、海という自然を相手にしているため陸上産業に比べ厳しいのですが、乗組員は漁業の特殊性を忘れず、「漁業のプロは安全のプロ」でもあってほしいものです。基本に則った対処が海難防止のための初歩ではないでしょうか。

 

 

 

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