では、どのような場合に正常に遭難信号が発せられるのか。日本電気制作の小型船用イパーブを例に説明をしてみますと(図参照)
(1) 手動発信=ストッパーを外し、セレクトスイッチ回転盤をONに回し、ピンを抜けば、刃物がバンドを切断し、ホルダーのマグネットスイッチが外れ、電源スイッチが入り、紅灯点滅とともに電波を発信する。
(2) 自動発信=船上のホルダーに設置のまま、手でストッパーを外しセレクトスイッチ回転盤をREADYに回し、ストッパーをセットする(通常この状態にして置く)
この状態で船舶が横転や転覆し、イパーブが海面下四メートルより深い位置(水圧一メートルにつき〇・一気圧を感知)となれば、イパーブ本体とホルダー間の離脱スイッチが外れ、これに連動し刃物がバンドを切断し、ホルダーのマグネットスイッチが外れONになり、電源スイッチが入り、紅灯点滅と共に海面を浮上しながら電波を発信する。
(注)TESTスイッチにセットすれば発光のみで発信はしない(ただし、他メーカーや他機種の場合は基本構造が同じかどうかは不明です)。
以上から誤発信を洞察しますと、ストッパーもセレクトスイッチ盤もケース内にあり、手で操作しない限り誤発信は生ぜず、ケースも外部から引っかけても開くとは考えにくく、取扱店の説明を参考とすれば自動発信状態セット時にイパーブ本体とホルダー間の接触マグネットスイッチの触れ具合、すなわち「カチッ」とセットさているかどうか。はめ具合によって船体の動揺や振動の小さな動きに応じ接触点に着・断が生じるためとも思われてなりません。
最新のコンパクトな精密部品は、高性能なほど、ささいな条件にも敏感に反応しやすく、これが原因であるとしたら、この箇所の設計改良とともに、取り付けの徹底指導を願うものです。
新生丸の場合、センセーショナルな海難として、平成十一年二月八日、NHKのクローズアップ現代「救難システムの誤算」で放送されたとおり、小型船取り付けのイパーブは、転覆時海面下四メートルの離脱範囲にわずかに届かなかったことが原因であり、ゴムボートヘの離船の際、船長が手動発信にセットしたが、転覆まで遭難電波の有効発信は一回のみで以後の海面下電波は空中に出ることはありませんでした。