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下ノ加江漁協の安全対策の取り組み

(社)日本海難防止協会 村上清一郎(むらかみせいいちろう)

 

一本釣りやったらまかしちょけ――。自信と誇りに満ちた土佐・下ノ加江の漁業者は、伝統を守るだけではなく、新しいものへの試みや挑戦の意欲が旺盛だ。

海中転落を防止する手すりの設置、作業性のよい救命衣購入と常時着用、水揚げ作業省力化のための魚倉のコンテナ化などその取組みには目を見張るものがある。

これらの取組みに至った背景や実現への経緯、そして、問題点などについて漁業者と膝を交えて語り合った。

 

はじめに

 

足摺岬に近い下ノ加江漁業協同組合は、土佐清水市に八つある漁業協同組合(以下漁協)の一つで、所属する五トン型小型漁船約七〇隻が沖合一〇〜二〇マイルの漁場を中心にソウダカツオ(地元ではメジカと呼ぶ。今後姫カツオと呼ぶことに決めている)を一本釣り漁法で日帰り操業を営んでいる。ほとんどの船は一人乗りだ。

 

海中転落と手すり

 

下ノ加江では、これまで三年に一件の割合で海中転落事故が発生しており、沿岸寄りの一件を除き、すべての事故で転落者の収容ができないまま終わっている。

一人乗りのため転落しても連絡の術がなく、付近の僚船がどうも様子がおかしいぞ、となってその船に近づき、はじめて無人船となっていることを確認し、ようやく転落事故を知るという。僚船による捜索活動は天候さえ良ければ一週間、黒潮の流れにそって潮岬付近まで続ける。また近隣の漁船も二〜三日間は捜索に協力してくれる。

それでも、かつて一度として転落者が見つかっていないのは、複雑な潮の流れ、転落者が必ずしも海面に浮いていないなどによるものと考えられている。

平成十年には、高知県内で二月から四月にかけ毎月海中転落死亡事故が発生した経緯があり、当漁協船主会では捜索活動後の反省会で検討の結果、各船に転落防止の手すりの設置、常時着用可能な作業性のよい救命衣の購入と常時着用の励行に取り組むことを決めた。

このようにして、まず実現したのが各船の手すりの設置だ。手すりには大別して二種類あり、一つはステンレス製のもので、見た目にスマートだが、一隻分で一〇万円以上の経費がかかる。もう一つは木製の手すりで、この方は経費は軽いが、ステンレスに比べると見栄えはよくない。

 

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転落防止のために取り付けられた手すり

 

取材をした平成十一年九月現在、ほとんどの船が手すりの設置を終わっていた。また手すりを設置してから今日まで転落事故は一件も発生していないという。

漁業者は、「手すりをつけることによって、不安がなくなった」「高さは、ヘソから胸くらいのものがよい」「もっと早くつけるべきだった」と感想を述べている。

 

作業性のよい救命衣の購入

 

一方、救命衣は手すりのようにはスムースにいかなかった。

船主会では、作業性のよい救命衣の購入斡旋を漁協に要請した。

 

 

 

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