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(4) 衝突・乗揚げ海難の原因【8図】

漁船の衝突海難では、見張り不十分が一二二隻(八三%)で順位がトップで、次いで居眠り運航が一一隻(七%)などと続いています。

一方、乗揚げ海難では、居眠り運航が二六隻(二四%)で順位がトップ、次いで船位不確認が二三隻(二一%)などと続いています。

 

四、自動操舵使用中の居眠り海難

 

前項のように漁船の海難の特徴である衝突・乗揚げ海難の原因では、隻数は少ないものの、居眠り運航が上位を占める状況にあることから、居眠り運航を誘発する自動操舵使用中の海難について、触れてみたいと思います。

衝突・乗揚げ海難全体(六五一隻)のうち、海難発生時に自動操舵を使用していたものは一三〇隻(二〇%)で、さらに当直者または操船者が居眠りに陥り海難に至ったものが六〇隻(四六%)を占めています。

この六〇隻の用途別の内訳は、漁船が三二隻、貨物船二三隻、タンカー四隻、プレジャーボート等一隻となっていて、漁船が半数以上を占めています。【9図】

また、これら漁船三二隻の当直人数をみてみると、そのほとんどが一人当直となっています。【10図】

 

(10図) 当直の人数

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発生時間別では、深夜から明け方にかけて多く発生し、また、船舶の動静は操業を終えた後の帰港中のものが多くを占めています。【11、12図】

 

(11図) 時間帯別

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(12図) 動態別

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以上のように、沿岸小型漁船の多くは夜通し操業し、明け方までに水揚げのため帰港することが多く、一人当直のうえ自動操舵で操船するため居眠りに陥り、衝突・乗揚げ海難に至るケースが多くなっています。

 

五、おわりに

 

最近では航海機器の性能向上や低廉化により、小型の漁船にも自動操舵装置(オートパイロット)が搭載されるものも多くなっています。これにより、運航に係る人的作業量の軽減、または省力化には大いに役立ったものの、その一方で当直者が機器を過信する余り緊張感をなくし、かつ、運航中(当直中)は見張り以外に作業がなく無刺激な状態に置かれるため、居眠りを誘発し海難を起こすというケースが増えています。

こうした自動操舵中の居眠り海難の防止には、根本的には居眠りを誘発するような睡眠不足や過度の疲労に陥らないよう、労働環境を改善させる必要がありますが、漁船の場合は運航と操業という二つの側面を持っていることからなかなか難しい問題であり、関係者間での改善に向けた取り組みが望まれるところです。

なお、冒頭の新生丸海難においては、海難の立ち上がりにおいて、不確実な段階における海難情報への対応や、海難事実の確認段階で情報が交錯するなど今後の教訓となる海難事例となったことから、海上保安庁をはじめ関係省庁において検討会を開催した結果、それらに対する対策が執られることとなり、今後の海難への対応に生かされることとなっています。

 

 

 

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