内蔵助様は「左様であればもっとものことである」と仰せられたが、何とやらお望みのように見受けられました。考えてみると、内蔵助様にはこの島でねんごろにいろいろとご介抱を賜ったことでもありますし、思い直して「もし、たってのお望みであれば、一本お預けいたしましょう」と申し上げましたら、内蔵助様は格別ご満足のようにお見受けしました。
殿様への奇木献上依頼
さて、残りの一本は豆州洲崎浦(下田市須崎)の利兵衛に預けました。船便あり次第、江戸八町堀に住む与兵衛宅に届け、水谷町の紀州様御蔵屋敷の外にお住まいの長嶋九郎右衛門殿にお目にかけ、もし、御用に立つようであれば、九郎右衛門殿から殿様へ差し上げていただくようにと、しっかり利兵衛に頼んでおきました。
木の葉は茗荷(みょうが)の葉に似て、削りますと、木目にいろいろの絵様が、見事でございます。この木の木質はと申しますと、二抱え三抱えばかりのが、幾らでもございまして、高さは十七、八間(三一〜三三メートル)最も高いものでは二十間(三六メートル)ほど、木本、木末、同じ大きさの木が、数多く見受けられました。以上
寛文十年五月二十七日
(一六七〇年七月十四日)
藤代村 長兵衛
無人島群の様子
あの島の近所に、周囲一、二、三里(四〜一二キロメートル)ほど、草木の繁茂した、伊豆大島の三分の一ほどの高さの小島が、十四、五ございます。同じく、周囲十三、四里(五一〜五五キロメートル)の島が、二つ見えます。また、同じく、周囲十七、八里(六七〜七一キロメートル)の島が一つございます。
このような島々に生えている木には、蘇鉄(そてつ・ソテツ科の常緑低木)、棕櫚(しゅろ・ヤシ科の常緑高木)、柏(かしわ・ブナ科の落葉高木)、常山(じょうざん・ユキノシタ科の低木)、桑(くわ・クワ科の属の落葉高木)、八入(やしお・ヤシ科植物の総称、ここでは「椰子(やし)」の意か)いそとべら(いそに生えるトベラ科常緑低木か)などがあり、このような木々はいずれも大木です。