六、おわりに
以上、航海支援システム研究チームで取り組んだOPBOシステムについての紹介を終えるが、このシステムの成果については航海学会でもいくつか発表しているし、全国内航タンカー海運組合等による研究成果報告書(航海支援システム開発に関する共同研究報告書、平成十年三月)としても公表されている。本文はこの報告書を基にOPBOシステムの概要を述べたものであり、詳細については本報告書を参照されたい。
OPBOシステムは、労働者不足に悩む内航タンカーヘの有力な解決策であるが、一方、労働者賃金の高い先進国において技術開発をべースとした、新しい海運産業形態のあり方を模索する上でも有効な手段である。海運産業は中進国向けの産業であると言われて久しいが、従来型運航形態であればそのとおりでも、新しい運航形態を創造することで先進国型産業にすることも可能であろう。ただしこのためには産・官・学の協力が不可欠である。
OPBOシステムの場合、産と学が協力して新しいシステムを開発したが、このシステムをわが国の海運産業へ導入するには、官側の対応、すなわち制度の改正が必要である。制度改正で問題となるのは、船舶運航における安全性の保証である。完全な保証をすることは現在の技術でも不可能であることから、多くの場合、在来型を残しこれに新しいシステムを上乗せすることで安全性を保証しようとする。
しかしこれでは、技術向上に対する評価としては不十分である。安全性の向上が認められるならば、従来型を新型に変えることを認めることが必要であろう。このことは搭載する機器や運航要員に対して、足し算だけでなく、時には引き算を認めることを意味する。
システムを開発した一員として、行政および関係機関が、今後のOPBOシステムの導入と発展、さらにこれに伴う省力化の方策について考えていただけるよう願っている。
新刊紹介
大型タンカーの海難救助論
原著者 英国海難調査局
訳著者 浦環、三谷泰久、久葉誠司、坂井信介
一九九六年二月十五日、英国南西岸のミルフォードヘイブン港外で、一三〇、〇一八トンの北海原油を積載した大型タンカー「シー・エンプレス号」が座礁した。
ただちに救助が開始されたが、荒天に災いされ、漂流と座礁を繰り返した。六日後にようやく港内へ着桟させ、救助活動が終了した。最初の座礁では約二、五〇〇トンの原油が流出したが、その後着桟するまでに六九、三〇〇トンの原油が流出するという大惨事になった。
本書は英国海難調査局がまとめた調査報告書を四人の専門家が邦訳し、さらに詳細な解説を加えたものである。
日本では、九七年に起きた「ナホトカ号」の事故が記憶に新しい。この時もそうだったように、ひとたび事故が起きると、さまざまな判断事項、対策が待ったなしで求められ、既存の対応策では処理できない問題も多い。事故が起きてから勉強していては遅いのである。
本書では一つの海難事故を題材に、官庁、船会社、サルベージ、保険等の機関や、条約・法令等の規則がどのように機能し、事故を処理したのかを体系的に学ぶことで、今後同様な事故が発生した場合に備えての「他山の石」とすることを目的にしている。同時に外国と日本の制度・方法を比較することで、国際的な海事知識も身に付くだろう。
専門家のみならず、一般読者にも「海難事故とは何か」がグローバルに理解できる貴重な「生きたテキスト」である。
(成山堂書店四、六二〇円)