ヒヤリハットと事故防止
―ある船社の取り組み―
(社)日本海難防止協会
企画部長 菅野瑞夫(かんのみずお)
八月十日の日本海事新聞に、安全航行の?バイブル?「ヒヤリハット集」住金物流四冊目を発行、要望があれば配布する旨の記事が載っており、早速電話で一〜四集全てをお願いしたら直ぐに手元に届きました。
ご存知の方も多いと思いますが「ハインリッヒの法則」というものがあり、ヒヤリハットと事故との関係でいえば「ヒヤリハットと軽い事故と重い事故」の割合は1:29:300」の関係にあるというものです。
とかく、大きい事故が発生した場合は、その事故だけに目を当てて検討しても本質的な事故原因、特に背景とか周辺環境をとらえることは困難です。私も経験がありますし、ヒヤリハットは意外に多いものです。学問的にも、その体験事例を集め、それらの幅広い資料を基に分析、研究して、始めて的確な事故防止対策が考えられるといわれています。
ところが、人間の心理として自分のミスは言いたくないもので、ましてや、会社に報告するなんて、自分の評価を下げるだけのものになるので、前記法則、事故防止のため有効なことなど理由を説明して報告を求めても、なかなか出て来ず、結局はポシャってしまうのが通例です。
その中で四集まで作成されていること、内容をみても船名入りで、短文ではあるが具体的イメージが浮かぶ程度の報告がなされていることに、驚きを感じるとともに会社および乗組員の方々に敬意を表する次第です。
そこで、同社の了解を得てその一部を、ヒヤリハット集の原文、使用イラストのまま掲載させていただきます。(本号との関係でタンカーが関与しているものから抽出)なお、言うまでもありませんが、ヒヤリハットは無いにこしたことはありません。前記法則からも、ヒヤリハットの多い船は事故に陥る恐れが大であることを銘記すべきです。
事例(1)
A丸(四九八トン)、平成七年十二月三日一四〇〇ころ、大分港入港中。
大分に入港しようとして、港口に向かって針路を定めたところ、左舷側約五カイリから本船の前方を横切ろうとしている六九九トン型のケミカルタンカーを発見した。
汽笛を吹鳴して注意喚起をするも進路、速力を変えず、接近して来るので、双眼鏡で船橋を見ると人影が全くなかった。急きょ左転して衝突を回避した。
事例(2)
B丸(四九九トン)、平成六年八月二十二日、二十二日一九四〇ころ、浦賀水道南下中。
浦賀水道を南下中、本船の前方約六〇〇メートルに三隻の船舶が航行していた。当時、下げ潮で潮流も強く、東京マーチスからもこの情報はVHFで放送されていた。一番右端を航行中のタンカー(空船)が潮流に圧流され、第三海堡に座礁した。
情報を無視したか、後続の船舶が接近していたので転舵できなかったかと思われた。