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同じ仕事を行う者が共通の目的、認識を持つことは、必要かつ最低条件であるはずです。乗組員全員が持っている情報を互いに提供し合い、共通の目的、問題意識を持つべきです。

現在、日本人が主管者となっている場合、日本人からの情報提供、指示が大部分を占めていますが、その内容、方法が不十分であったり、不適切である場合があります。また、他の外国人船員からの情報提供、提案を取り上げる機会が非常に少ないと感じています。

私たちからの情報提供の方法、内容が適切であるかを見直すと同時に、彼らから積極的なコミュニケーションがとれるような環境を作ってあげることも重要なことであると考えます。

 

ヨーロッパ人の厳しさ

 

本船の船長は、非常に厳しい人でした。それは、厳しさの中に愛情があるというものではなく、冷酷という表現が相応しいと感じることもありました。船長は自分の職務を完全なるビジネスとしてしか考えておらず、ときには乗組員の人格をも無視するような言動もありました。

古くから欧米人は海外へ進出して植民地を持ち、現地人を自分たちの利益のために使ってきた歴史がここにも反映されていると感じました。

しかし、冷酷と感じるまでの厳しい指揮があってこそ、この多国籍混乗船を運航できていたのも事実です。特に主張の強いインド人に対しては、常に厳格な態度を崩さず指示を与えていたことが印象的でした。

ヨーロッパ人の厳しさというのは、一貫して自分の主張を押し通し、相手に反論させるすきを与えず服従させてしまうことだ、と私は理解しました。

日本人乗組員の中には、時には声のトーンを上げて、いかにも厳しく指揮しているような方を見ますが、ヨーロッパ人の厳しさとは全く異なります。ヒステリックな言動は、乗組員の反感を受けるばかりで、大きな問題を引き起こす原因になる可能性があります。

これからの私たちにもこの?ヨーロッパ人の厳しさ?が必要なはずです。時には、本船の安全運航、船内の秩序を維持するために、自分の信念を貫き通し、理論的に相手を抑え込む強い指揮力が必要不可欠であると考えます。

 

日本人の優しさ

 

多国籍混乗船の船内には、いつも?冷たい?雰囲気が漂っていると感じていました。それは、コミュニケーションの少なさと、職務以外の場において乗組員全体の交流の機会が全くなかったことが理由であろうと思います。

逆に、主管者が日本人である船では、?温かい?雰囲気を感じることが出来ます。昔から日本船では、職員と部員との仲がよく、交流の場が多かったと聞いていますが、その流れを現在も受け継いで外国人乗組員との交流も多いのでしょう。

現在の船内交流の最たるものとして、船内レクレーションがあります。わずかな時間ですが、職務を離れ、一つのゲームで全員が競い合うことが、よりよいコミュニケーションとなり、お互いの理解を思いやりが深まることになっていると思います。

これは、典型的な日本人の発想ではありますが、決してヨーロッパ人には真似することの出来ない日本人の特徴であり、また優れている点であると私は自信をもっています。

その他の船内生活においても、日本人はちょっとした優しさや思いやりが、船内の雰囲気をよりよいものにしていることを、ヨーロッパ人との船内生活を経験したことで、あらためて実感しています。

私たちには、ヨーロッパ人のように、時として乗組員をかつての奴隷のように扱うことは心情的に無理かも知れません。しかし、乗組員全員が楽しく仕事が出来るように考え工夫していくことは、私たちの得意とするところではないでしょうか。

これからも?日本人の優しさ?を忘れず、安全運航を損なうこととならないような船内環境の維持も重要な仕事の一つであると認識しています。

 

 

 

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