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特集 災害防止

 

安全の向上のために

船員労働安全衛生月間優秀作品

 

船員災害防止協会が募集した平成十一年度(第四三回)船員労働安全衛生月間応募作品のうち「体験記・意見」の部および「標語」の部それぞれの優秀作品を紹介する。

酒出さんは、外航海運に定着した混乗船における安全運航のためのあるべき心構えをご自身の経験から述べている。また井上さんは、零細な沿岸漁業の安定経営と安全操業について、悪夢のような出来事を乗り越えて訴えている。

 

「体験記・意見」の部

優秀賞二点

 

多国籍混乗船から学んだこと

 

出光タンカー株式会社

三等航海士 酒出昌寿(さかいでまさとし)

 

昨今、急激なスピードで日本人と外国人の混乗化が進められ、今後ますますの日本人乗組員少数化は、必至の現状となっています。

このような環境の変化の中において、現在まで諸先輩方が努力されてこられた「安全な航海の維持」をどのように受け継いでいくかが、今後の私たちに与えられた最大の命題であることは、もはや共通の認識であることと思います。

私は、将来、より少数の日本人で多くの外国船員と共に安全運航を維持していく上で、次の三点が重要なキーポイントであると考えています。

1]コミュニケーションの重要性

2]ヨーロッパ人の厳しさ

3]日本人の優しさ

(ノルウェー籍原油船への乗船)

私は以前、ノルウェー籍の原油船(VLCC)に三等航海士として乗船した経験があります。

本船はまさに多国籍混乗船というに相応しく、配乗は次のとおりでした。

船長、一航士=ノルウェー人

機関長=スウェーデン人

一機士=スリランカ人

二航士、二機士、エレクトリシャン、C/COOK=インド人

三航士、三機士=日本人

その他の乗組員=フィリピン人

日本の船社とは環境が大きく異なる中でのカルチャーショック、戸惑いの連続ではありましたが、日本とヨーロッパのお互いの特徴を比較し、これからの日本人乗組員に何が必要であるのか、そのヒントをつかむことができたと実感しています。

本船への乗船で"使われる立場"になったことで、今まで気付くことが出来なかったさまざまな面が見えてきました。また、今後さらに厳しくなるであろう海運業界の環境の中で、自分の力を発揮していくためのよき自己鍛練の場にもなったと感じています。

 

コミュニケーションの重要性

 

本船での航海当直は、航海士がブリッジ、Q/Mが常にウイングで見張りを行うシステムでした。

二人の間にはほとんど会話がなく、当直の四時間が過ぎました。Q/Mに本船がどのような海域を航行しているのかも知らされず、ただ漠然と前を見ているだけということに、私は大きな疑問を抱きました。

同じ当直を行う者同士が、共通の認識を持たずよい仕事が出来るでしょうか。航海当直以外の毎日の作業、荷役作業においてもミーティングは一切行わず、主管者であるノルウェー人、スウェーデン人のみが把握していればよいという考え方でした。

このような状況の下、国籍の枠を超えた団結力は皆無であり、私は緊急時の対応が遅滞するであろうという不安を常に抱いていました。乗船している者同士のコミュニケーションがないと自分には何が出来るのか、何をするべきかの判断に戸惑うと共に、これほどまでに不安を感じるものなのか、ということを痛感しました。

 

 

 

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