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ロッテルダム港内の一角には船首部分を抽象化した巨大なモニュメントが立っており、その基部には悲しげな人たちの像が浮き上がっている。これがドイツ兵に迫害されるオランダ船員たちを現すものだとは説明されて分かったが、《君たちは正しいコースをとった》という意味深長な碑文が印象的だった。

死者を弔うやり方には洋の東西で多少の差異はあろう。ただ遺族や後世に生きる人たちの切なる思いの対象を弔うやり方としては、オーストラリアやオランダの手法が私自身の心の琴線にふれるものがある。

 

何か冷たい日本の手法

 

総じて日本で殉職者を公的に弔うやり方は一般人が近づくことの許されない奥深いところに祀られる靖国神社か、あるいは〈○○の碑〉という風にまとめて表示して、個々の人物名には蓋(ふた)をしてしまうのが普通である(沖縄のひめゆりの塔は例外)。このような手法をアメリカ(ワシントンの戦没者名を刻んだ慰霊碑)やオーストラリアの例と比較するにつけ日本の手法は何か冷たいような感じを抱く。

不可解なことだが今の日本では近代の戦争体験を具象的展示にすることはタブーになっているようだ。海事博物館でもこれらの展示が欠落している。これは同じく大戦敗戦国のドイツにある海事博物館では第一次、二次大戦の軍艦などが歴史のひとこまとして堂々と展示されているのと対照的である。

 

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故国よ安らかなれ―― 南へ向かう輸送船団

 

戦争指導に大いに問題のあった太平洋戦争であっても、多くの尊い人命が失われたことの重大さを受け止める気持ちを素直に現して悪いはずがない。そしてこの面ではアメリカ的手法の方がより適切ではなかろうか。

 

おわりに

 

この稿では戦争のことにこれ以上触れるつもりはないが、少なくとも散華した特別攻撃隊員の全姓名は慰霊碑に刻みたいものである。そして戦没した船員の碑も、辺ぴな三浦半島の先端でなく、大勢の人の集まる公園にすべての姓名を刻んで建てたい気持ちは切なるものがある。

日の丸を掲げる商船は少なくなったとはいえ、日本の生存を支えるいまの(便宜置籍船を含めた)日本商船隊の礎となっているのは陸海軍を上回る損耗率43%、(陸軍軍人20%、海軍軍人16%)を強いられた三万五九二人(ただし汽船船員、(財)海上労働科学研究所調べ)の戦没船員なのだから。

 

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