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プレジャーボートの海難に思う

元神奈川漁業無線局 秋中一允(あきなかかずまさ)

 

プレジャーボートの海難が増加を続け、漁船を追い越してワーストワンになっているとのことです。

高度成長期以前はプレジャーボートの数は少なく、海難は専ら漁船が占めていました。当時から海難防止を目指して一般的には種々な施策が講じられてきましたが、漁船を対象としたものでは「漁業無線」の普及があげられます。

漁業とレジャーでは「生産」と「消費」(強いて言えば労働力の再生産)という「成り立ち」の違いはあるでしょうが、海難により損なう何事にも代え難い人命は、すべて同一の価値として考えるのが妥当だと思います。

「無線」は「タイタニック」を契機として海難発生時の救助に威力を発揮するわけですが、「タイタニック」でも事前に氷山情報が無線で送信されたおり、これを入手していたならば悲劇は防止できたはずです。

「漁業無線」は海上航行の安全と漁業操業の効率化を目的として免許されており、海難防止のため各種情報の提供や安全思想の啓発(主として気象情報の利用など)に努力した結果が漁船の海難事故減少に寄与しているものと考えられます。

また、これらの情報は陸上に開設された無線局(海岸局)を通じ漁船の無線局(船舶局)に周知されており有効に活用されています。

ところで、「漁業無線」という枠組みの中で、この海岸局の開設(免許)には地方公共団体(都道府県)が関与しており、漁業の指導・監督という行政上の目的で免許されています。地方自治法では「住民及び滞在者の安全保持」(第二条)が地方公共団体の仕事として例示されていることから、都道府県が免許されている海岸局として安全情報の提供や安全思想の啓発は当然の仕事といえます。

そこで、この情報を同じ海上にいるプレジャーボート等も有効利用できないものでしょうか。地方自治法上の問題はないのですが、電波法令で、異免許人間通信は原則禁止となっていますのでレジャー用海岸局も開設されております。

 

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航海の安全には気象・海象の情報収集が欠かせない

(横浜ベイサイドマリーナ)

 

これらの海岸局では安全情報の提供や啓発の仕事はどうなっているか実態は不明ですが、漁船向けの情報をレジャーも利用できればこれに要する社会的経費やエネルギーが節約できるのではないでしょうか。安全に関しては地方公共団体免許の海岸局はプレジャーボートも情報提供の対象にできるよう制度変更が必要だと考えます。

万一の海難発生時、救助の第一義的組織は海上保安庁ですが、残念ながら保安庁だけでは対処できない事例が数多くあり、多くの漁船(要請されたものと自発的に参加したものがある)が救助・捜索に従事してきました。

海難防止・救助のための漁業とレジャーが安全情報を共有できるシステムづくりが望まれるのではないでしょうか。

 

 

 

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