転覆・落水・沈没
●最初に転覆したA号
二十七日午後二時ごろ、ガボ島南三〇マイルで転覆、デスマストした。
艇体は起き上がったがキャビントップが割れ、水が艇内に流入、エンジン始動不能。乗員は艇体を放棄してライフラフトに移乗、ヘリコプターに救助された。そのうち一人は数本の指を失っており、一人は頭を怪我していた。その後ラフトは強風で車輪が転がるように海の彼方へ消えていったという。
●最初の犠牲者C氏(三三歳)
二十七日午後五時半ごろ、O号はレースをリタイヤしてイーデンに避難しようと進路をとった。その時点で風速は七八ノット、巨大な波が立っていた。O号のクルーC氏は舵を握り他の一人がデッキに残り、あとのクルーは艇内に入った。
船内のクルーは砕ける波音を聞いた。ヨットは激しく傾き、大きな音とともに三六〇度回転した。外から「落水!」の叫び声、船内からコックピットに駆け上がったクルーはC氏が艇から三〇メートルの海上にいるのを見た。さらに二つの波が襲いかかり、C氏との距離はあっという間に倍になった。もう遠すぎた。マストは折れ、ステアリングホイールは潰れ、エンジンは始動不能の状態。艇体のひどいダメージによる浸水をクルーたちは懸命にバケツで排水して救助を待った。転覆から一二時間後、残る全員はヘリコプターで救助された。
(注)ガボ島はこの図にあるほど大きい島でない。島の南側に灯台がある
●転覆したB号
B号はO号の転覆と同時刻ごろ転覆した。艇体に重大なダメージを受けたが、北西四二マイルにあるガボ島に向け機走した。六時間後再度転覆、上下逆さまで四〜五分留まった。その時一人が溺死、艇体は水船状態、艇が起き上がる際スキッパー(五一歳)が落水、艇へ上がってくるとき心臓発作で息を引き取った。翌朝八時、生存者七人はヘリコプターで救出された。
●五二フィートU号の沈没
U号は船令五六年のオールドボート。二十七日午後四時、ストームジブのみを揚げて進んだ。クルーたちはU号がロングキールを持っているので荒天に強いと信じていた。
巨大な波が艇体を持ち上げ前方の波の背に四五度の角度で叩きつけた。その衝撃で窓ガラスが幾つか砕け、スタンディングリギンがデッキから引き抜け、左舷ブルワークが二メートル剥ぎ取られ海水が一気に流入、二〇〜三〇秒で水船の状態、その後二〇分で沈没した。
スキッパーは「あれほど早く沈んだのはマストが船底を突き抜けたからだろう」と言った。
乗員は二つのライフラフトに飛び乗りヨットとともに沈むのは避けられた。
荒天に浮くラフトは何度もひっくり返り、九人のうち三人が海中へ、うち二人は遺体で発見、一人は行方不明となった。