最近「プレジャーボートの要救助海難事故がダントツで、事故防止に努力してほしい」と、このところ何度か伺った。
私どものクラブでも安全運航上から、海難防止を再三取り上げるが、会員の反応は「どうして、そんなに海難事故が多いの?」という素朴な疑問を持つ人から「海技免許取得者が増え、お手頃な価格で船が多くなった。愛好者とボートが増加することは分母が大きくなる。そうすれば必然的に分子も大きくなる。故に事故が増加したのだ」「海洋レジャーが盛んになってきたので、必要悪だね……」と冷めた見方をする者、さらに「海難事故の増加、事故防止、事故防止と再三にわたって聞かされると耳にタコができて逆効果だよ」と言う者まで多種多様である。
ルールは無論、安全で他人に迷惑をかけないモラルとマナーを各人が心得て、快適な海洋スポーツが一番なのだと思うが。果たしていかがなものであろうか……。
私も昔は無謀に近い運転をしたこともあったが、年を追うに従って自然の偉大さ恐ろしさと機械の脆さを知らされた。
そして世間が広がるにつれて無理な運転はできなくなった。それが安全運航につながっているのだから、"よし"としなければならないのだが、本人としては一抹の寂しさも禁じ得ない。
知人から「ボートを持っているとは羨ましいですね。今度連れてって下さいよ。ぜひ乗せて……」といわれることがある。たいがい「そうですね、そのうちに……」と乗り気薄の返事をする。別段ケチで乗せたくないのではない。他人様が思っているほど楽しい訳ではなく、かえって苦労をするときの方が多いのである。自分では「楽あれば苦あり」と言い聞かせている。
まず、大島でも下田でも行こうと約束をすると、事前にエンジンや電気系統を中心に点検整備を行わなければならない。当日の気象海象をつかんで「まあ、出られる」と判断すると入門証を持った私かクルーがハーバーまでお客を連れてこなければならない。なにやかにやとして出航準備が完了してもわずかな時間に気象海象が悪くなれば「出航中止」となる不運なときもある。天気予報で「大丈夫だろうと出掛けて行って「ダメ」の確立は三割はある。そんな時、身内なら直ぐメンテナンスや何かに振り替えられるが、お客さんにはそうはいかない。
無事に出航しても、波浪が強くて観音埼から引き返してくることもある。苦しい思いをして波浮港を目前にしても入港ができずに引き返したこともあった。こんな訳で確実性の少ない船出には、あまり他人様に「どうぞ」と言い難いのが実情だ。
そもそも、私が免許を取るきっかけはいろいろあったが、やはり「白い波しぶきをあげてそう快に走っているモーターボート」を夢みたからであろう。
練習では、指導員が丹念に調整していてエンジンは快調。波浪のある日はほとんど実施しなかった。教わる厳しさはあるもののラクチンであった。
免許を取ると船がほしくなるのも人情。といってもそうそう買える代物ではない。同期の仲間二人で二〇フィートの中古艇に試乗となった。快晴の晩秋であったと思う。東京湾から浜金谷に向かったが、エンジンはよく手入れがされていて問題なし。ステアリングの切れもよく快調そのもので、映画の若大将気分でルンルンだ。